正義の味方④ 1話

「あれ?」

「あらま」

 季節、体感は夏。家のエアコンが壊れ、修理が終わるまで我が家族は蜘蛛の子を散らしたかのように何も語らず散り散りになった。俺も迷わず一駅電車に乗って最近出来たショッピングモールという名の避暑地へ駆け込んだ。そういえばと買いたいものが浮かんできて、外の暑さから開放された俺は半ば頭お花畑になり靴下やらノートやら、本当は先日行ったような文房具屋の方が明らかに安いがこの炎天下の中移動するのは例え駅から近い場所にあるとしても行くのははばかられた。

 閑話休題。そうだシャー芯も無くなりかけてるなと目に入った雑貨屋に入った。はたから見たらファンシーな雑貨屋だが、文房具などの小物がやけに安くてわりとよくお世話になっているのだ。友人に話したら、勇者と言われた。何故だ。シャー芯を探しにウロウロしていたら、見慣れた後頭部が見えて目を疑った。同時に相手もこちらに気付いたようで、冒頭となる。

「こんにちは…」

 ぽかんと小さい口を動かして反射的に挨拶をしてくれたので俺も返事をする。というか私服、私服は初めて見た。水色のギンガムチェックのワンピース、よく似合って可愛いなオイ。家も学校から正反対だから街でばったりとか考えた事は何度もあるが、本当に会えるとは。

「め、珍しいね」

 声が裏返りそうになりながら沸騰間近な頭で最初の疑問を投げかけた。キモオタになりかけるフォーシームにならないように、あくまで、’帰宅部のイケメンくん’という通り名を’帰宅部のキモオタくん’に変えないように内心ひいひい息切れしながら、だが見た目はクールにつとめて頭一個分下の位置にある愛しい丸みの頭をじっと見ていたら、俺もじっと見られていることに気付きギョッとしてしまった。しかしいつ見ても綺麗な瞳だな。

 二人してなんの意味もなく見つめあって数分(体感)、ようやくあの子が話しかけてくれた。

「お買い物ですか?」

「あ、うん」

 それだけ?俺、それだけか?折角の仲良くなるシュミレーションの選択肢が分かりやすく光っているのに!日本語、むずかしい。

「そうなんですね」

 ほらー!会話終わった!もうこれ終わった。解散。しそうで死んだ魚の目になりかけた俺に天使の音色が耳をくすぐるように鈴が鳴った。

「奇遇ですね」

 まだ少し人見知りしながらもはにかみながら応えてくれる。なんていい子だというか女神より女神というか。最近ちょこちょこばったり会う謎の存在(我ながらちょっと傷付いた)を受け入れてくれる懐の広さよ。でも球技大会の件から一気に近付いて、どうしてこんなにチャンスをくれるんだ頼った事のない神様よ。等価交換で体持っていかれたらどうしよう。

「う、うん。ここから近くに住んでるんだ」

「まあ!うちからはちょっと遠くて、ドライブがてら寄ってみたんです!って、あ、わたしの話なんかどうでもいいですよね…」

「どうでもよくない」

 楽しそうに跳ねる言葉から懺悔のようなものになり、ほぼ無意識に食い気味の声が出た。

「よかったら話してほしい。たくさん、きみの話を聞きたいんだ。…って気持ち悪かったらごめん嫌だったら殴っていいから」

「き、気持ち悪いだなんて!」

 今度はあの子が食い気味になって、数秒、また二人してくすくすと内緒話をしているように笑いあった。うう、可愛い。

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