第三章 受け継がれるメロディ

特撮ソング界の重鎮

「あれ、お前さんは確か」


 以前話した、アニソン一筋の男子学生を呼び止める。


「お前さん、アニソン科だろ? ゲーム科に用事か?」


 ゲーム科に顔を出そうとしていたからだ。


「はい。アニメが原作のゲームが出るそうで。僕、そのOPを演奏するんですよ。バックでエレキギターを弾くだけですけど」


「いやいや、大したもんだよ。誇っていいぜ」

「ありがとうございます」


 学生は、屈託のない笑顔を見せた。


「ゲームと言えば、知ってますか? 昔、高林健が、ゲームの音楽を担当する話があったの」

「そうなのか?」


「はい。ただ、一度立ち消えになったそうです。本人が亡くなってしまったので。楽譜だけが残っていて、他の方がメインに抜擢されました」


 タイトルは、普段ゲームなんてしないオレですら知っている。

 遊んだことはないが、今でもシリーズが出ている人気作だ。


「その音楽家が高林健のファンなんですって。最新作で、どうしても彼の遺作を扱いたいと言ってきたそうです。数曲でいいからと」


 健が、ゲーム音楽に挑戦していたとは。


 オレは、深歌に電話をかけてみる。

「今、電話いいか?」


『何かあったの?』

「健のヤツ、ゲーム音楽をやろうと思っていたって聞いたが?」


『本当よ。その準備中に命を落としたけど』

 深歌は言いづらそうに、肯定した。


「なんでまた? てっきりオレ、あいつはロック一筋だと思ってたぜ」


 ゲームからは、最も遠い所にいる人種だとばかり。



『私が妊娠したからよ』



 健が関わっていたゲームは、子どもをターゲットに売り出す作品だったらしい。


『健が言っていたわ。本当は児童向け番組の音楽をやろうとしていたみたい。だけど、大人になったら聴く気が失せる可能性がある。その点、ゲーム音楽なら好みの問題だし、気に入ったらいつまでも聴けるだろう、って』


 電話を切って、ゲームスタジオに顔を出す。


 メイン楽曲の人が誰なのかを教えてもらって、是が非でも会ってみたいと思った。



        ◇ * ◇ * ◇ * ◇


 

 スタジオを見てみるが、姿がない。今は休憩中で、喫煙所にいるという。


 喫煙スペースへ。


 自動販売機の前に、白髪の混じりで背の高い男性が立っている。紙コップのブラックコーヒーを啜っては、六ミリのタバコを吸っている。相変わらずセンスのないカーディガンだ。


「大友先生。お久しぶりです」


 見知った顔を見つけて、挨拶をする。


「おお、トクセンくん」


 大友さんは、特撮音楽の重鎮だ。

 特撮マニアで、彼の名を知らない人はいない。

 オレの恩人でもある。

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