第3話 初めての戦闘

「よっしゃ!いくか!」



 竜也の掛け声でツバサの意識が急に引き戻される。ツバサたちは今、アドルフ迷宮のある、国の最北端の町アドルフに来ていた。この町は、迷宮に挑戦しに来る冒険者たちのための武器商や宿屋が多くならんでいて、通り行く人たちもみな武装をしてる。人口のおよそ6割が冒険者で、毎日のようにアドルフ大迷宮の前には人だかりができている。



「なんだ?緊張しているのか?大丈夫だ。中層ごときでは俺が遅れをとることなんてねーよ。がははは。」



 今回、ツバサたちを引率しているのはこの国の騎士団長であるジェラードだ。ツバサを除く3人は一週間の間、この人が率いる騎士団から戦闘を教わっていたらしい。騎士団長たちもよくこの迷宮には訓練に来ているので、中層程度ならば騎士団長一人でも十分なのだそう。



「ツバサは私が守るから、けがをしたときはすぐに言ってね」



 そういってさっきから文月がツバサに話しかけている。ツバサ自身は戦闘訓練もほとんどしてこなかったためかなり緊張していてほとんど会話になっていなかったのだが、確かにチートスペック三人に加えて「ブレロッサの鎧」という二つ名までついちゃっている騎士団長がいれば大事に至ることなんてまずないか・・・、と妙な自信が出てくる。(ブレロッサはツバサたちが召喚された国の名前)






 ほどなくして、迷宮前に到着した5人は冒険者ギルドで受付を済ませると、さっそく中へと進んでいく。迷宮の中は、洞窟、というよりかは炭鉱に似ていて、壁には光る鉱石が埋め込まれている。入り口付近は冒険者たちでごった返しているのでジェラードの先導でどんどん進む。



 だんだんと人気が少なくなってきたとっころで、道の真ん中に何やらとんがった角をもったネズミみたいな生物がいる。ネズミといっても地球の5倍のサイスではあるが。



「おお、こいつはボーンマウスだな。ちょうどいい。ツバサも少し経験を積んでおけ。安心しろ、死にはせんよ。」



 どうやら竜也たちのレベルだとオーバーキル気味になってしまうらしく、実力としてはほぼ互角と思われるツバサが戦うようだ。



 ツバサが指名されたとき、文月がすごい顔をして団長をにらんでいた気がするのだがまあ気のせいだろう。



 少し距離を詰めていくと、相手側もこちらを感知したようで、ピリっ、と殺気を感じる。自分の首筋に汗が伝っていくのを感じる。息がしにくい。あらかじめわたされていた鉄の剣を今一度強く握りしめて、いざ、ネズミもどきに挑んでゆく。



「はっ!!」



 掛け声とともに剣を前に構えながらツバサが突っ込んでゆく。するとその瞬間ネズミもどきが、飛んだ。いや、正確には跳躍したのだがあまりに高かったためツバサから見るとまるで飛んでいるかのようだった。



 そして上を通り過ぎていくネズミに向かってツバサは剣を突き立てるが、長さが足りるはずがない。しかしツバサの突き立てた剣がわずかに伸びて、ネズミの脇腹に剣先が触れた。



「くそっ」



 決まったと思った攻撃がうまく入らずにツバサは思わず悪態をつく。そう、何も無能のレッテルを張られたからと言ってふてくされて一週間図書館にこもっていたわけではない。ツバサの能力は生成であるのだが、毛色は鍛冶の能力に近い。なので少し剣先を伸ばすくらいならツバサでも可能になっていた。



(勝てるぞ・・・)



 少し手ごたえを感じつつ再び相対しようとするが、後ろに目を向けると、もうすでにそこに魔物の姿はなかった。



「ツバサ!後ろ!よけて!」



 叫びというよりも悲鳴に近いような文月の声をツバサが聞いた時にはもう遅かった。後頭部に強い衝撃を感じると目の前で火花が飛び散り、意識が遠のいていった・・・。






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「大丈夫?気が付いた?」



 意識が戻るとツバサは先ほどの戦闘で受けた傷を文月に手当てしてもらっていた。文月が心配そうな表情でツバサの顔を覗き込む。さっきのネズミもどきは樹が弓で倒してくれたらしい。初戦闘とはいえあんな弱そうなモンスターともまともに戦えないのか、とツバサが落胆していると、



「さっきのは負けちまったけど惜かったじゃねーか。次勝てばいいんだよ。命があれば何回だって挑戦できる。だろ?」



 そういって竜也はニカっと笑うと背中を思いっきりたたいてきた。



「痛っ!なにすんだよ!」



 と返しつつも、竜也には助けられてばかりだな、と親友のありがたみを感じる。



「休憩はもうそろそろ終わりだ。もう少し先に進むぞ。あと、ツバサは俺のそばから離れないでくれ。ここからは少しレベルが上がるからな。」



 と、ジェラードが指をさすとそこには地面に大きな魔方陣が敷かれていた。



「ここから中層に移動するんだ。転移の魔方陣だな。さあ、みんなも早く来い。」



 全員が乗ると、魔法陣が光り始める。そして目の前が光りのまばゆさで見えなくなると同時に、ふわりと自分の体が浮いたと思ったら、次の瞬間には目の前に違う光景が広がっていた。





 





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