第2話 無能の烙印

染谷 竜也 :勇者(β)


一条 樹  :聖弓術師(β)


朝比奈 文月:聖法術師(β)



「おお、すばらしいですな。申し分ないメンバーですぞ。これなら魔王討伐の日も近いでしょうな!」



 と鑑定士も微笑んでいる。そして最後にツバサの番が来た。ツバサは誘導に従って椅子に座り、さっきの鑑定士のおじさんの目を見る。すると、急にその顔が少し歪む。



 「あーあなたは・・・はずれですな。外れ能力。しかもなんじゃろこれ、Ω?とにかく戦闘は無理でしょうな」



(まじかよ・・・)



 そう、ツバサの能力はーー




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「はあーー」



「もー。元気出してっ!大丈夫だよ、私だって攻撃能力はないんだし」



 外れ職であったツバサはこれまでにないくらい落ち込んでいた。これまでとは逆転し、今度は文月がツバサをはげましている。昨日は三人から一斉に慰められて少し悲しくなったので、やめてくれといったのだが、文月だけは声をかけ続けてくる。


 今はそれが少しありがたい。が、一方でツバサは違和感を感じていた。第一に、あれだけビビっていた文月が能力を見た途端、急に勇ましくなったこと。それに加え竜也や樹も自分の能力を見て自信がわいてきたのか、あの人たちに協力することを決めたのだ。



 ツバサだけは外れ職であるためか、還ることを勧められたのだが、一人で帰るわけにもいかないし、ほんの少しだけ胸騒ぎがしたので残ることにした。



「それにしても、この装備とかかっけーなあ。早くつけて戦いたいぜ!」



「ええ、私もこんなきれいな弓見たことないわ。ただ少し派手すぎるわね・・・」



 と固有の能力に応じて装備が与えられているのだが、もちろんツバサにはない。一方で文月は杖をもらっており、今は文月の背中に担がれている。もはや武器すら与えられていない時点で、全く期待されていないのはわかった。



 昨日の間に、ツバサのうわさは広がり、「勇者パーティー唯一の無能」とささやかれ、少しショックであったが、よくよく考えたら日本でもこんな感じだったと思い出し、苦笑する。



 笑っているツバサの様子を見た文月は安心したのか、



「少し散歩したいなー。ツバサも一緒にどう?」



 といつもの調子に戻った。気分転換をしたいと思っていたツバサはその誘いに乗る。



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 しばらくして散歩を終えたツバサが自室に戻ると、樹は自分の部屋に戻ったらしくツバサの部屋にはいなかったが、竜也はツバサの部屋で筋トレをしていた。



「何やってんだ俺の部屋で」



「見りゃわかるだろ。筋トレだ!一緒にやるか?」



「いや、遠慮しとくよ」



「一週間後には迷宮に潜るらしいからな、トレーニングは欠かせないぜ!」



 そう、4人は1週間後、国の北端にある迷宮に挑むことになっていた。そこで魔物と戦い、戦闘に慣れようという方針だ。



「そう・・・だな」



 ツバサの能力を考えると、筋トレは無意味そうであるのでツバサは明日から書庫に行こうと思っていたのだ。しかし戦闘面で役に立たない自分に少し腹が立つツバサは少し心にもやがかかるが、それを振り払うようにベッドにもぐりこむ。




 次の日、ツバサは昨日決めた通り、宮殿の書庫にいた。どうやらここは許可がないと入れないらしく、人は全くと言っていいほどいないようだ。ツバサは昨日のうちに許可を取っていたので気にせずに中に入っていく。



 先日聞いた話だけでは圧倒的に情報量が足りないので、ツバサは気になった本を片っ端から読んでいく。まず気になったのは「能力」につてのことだ。



 調べていくうちに少しずつこの世界のシステムがわかっていく。まず初めに、

「能力」にはα型とβ型があり、ふつうはみなαに分類されるそうだ。



 しかし異世界から召喚された人はβ型に分類される、強力な特殊スキルを持った能力を得ることができるらしい。竜也、香月、樹の三人はβ型であるが、おじさんの話によるとツバサはαでもβでもどちらでもないらしい。ただ、このことに関して、鑑定能力にとどまらずほとんどの能力にはのようなものが存在するらしいから今回もその類だろうと察した。



 結局のところ、問題なのはツバサの能力であった。



「生成師って鍛冶職が持ってる能力らしいな・・・」



 そう、ツバサの能力は生成師である。本来、魔術は火、水、雷、木、風の基本属性に加えて、上位属性である聖を加えた6つの属性が人間の扱うことのできる属性であるのだが、扱うことができるのは戦闘能力を持つ人間だけであり、非戦闘能力は基本的に属性を操ることができない。



 生成師も例外からは漏れず、基本属性を操ることは不可能である。生成師ができるのはいわゆる鉱物を武器に変える、といったようなどこにでもあるごく普通の能力だった。



 そんな非戦闘職でも異世界人であることには変わりがないため、いちおうおもてなしは受けてるのだが、すれちがうたびに見てくる人々の視線が少し痛いのは気のせいではないだろう。



 それでも一週間後にはこの国最大の迷宮、「アドルフの迷宮」に挑むことになっている。この迷宮の中には魔物がいて、奥に進めば進むほど魔物が強くなるんだそうで、攻略者はまだ一人もいないらしい。



 そこの迷宮の最高記録の半分くらい進んだところでツバサたちは経験を積み、慣れてきたら進んでいく、という方針でやっていくのだそうだ。



 ・・・とちらりと窓に目を向けるともう空が赤くなっている。異世界にも夕焼けってあるんだな、とか思いながらツバサは食堂へと向かった。








 こうして一週間はあっという間に過ぎていき、ついに迷宮に潜る日がやってきた。








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