気まずい

「コホン、ン、ンン! アーダルベルト、予定通り白夜様をお呼びしました」


 速やかに俺から離れたエリーザは、咳ばらいをすると何事もなかったかのように、アーダルベルトに話しかけた。

 流石王族、感情の切り替えが見事だ。


「うぉおっほん!! えー、お久しぶりです。白夜殿・・・」

「う、うん! 久しぶりアーダルベルト!」


 しかし、アーダルベルトは武人。

 この手の切り替えは苦手なのだろう。非常に気まずげだ。

 俺に至っては言うに及ばず、声も完全に裏返っている。

 お互いに挨拶を交わした後、不自然な沈黙が訪れる。

 き、気まずい!

 エリーザは爽やかに笑う。


「アーダルベルト、白夜様には帰られてから今までの経緯を説明した所です」

「な、なるほど。そうでしたか! ・・・それが何故あのような展開に・・・」


 アーダルベルトは後半聞こえない程度の小さな声でブツブツ言っていたが、聞こえてるぞ。

 アーダルベルトは眉間にしわを寄せながら目を瞑り、ようやく落ち着きを取り戻し、俺と向き合う。


「白夜殿。丁度今、軍議を開こうとしております。どうか白夜殿にも参加していただきたい」

「・・・俺が参加しても特に何も出来ないと思うけど」

「白夜殿はこちらの主戦力。どのような作戦を取るにしても要となりましょう。是非とも参加願いたい」

「解ったよ」


 まあ、決まった作戦が『単身で突っ込め』とかになったら嫌だしな。

 例えるなら、学校を休んでいる時に、勝手に学級委員長に決まっていたみたいな。


「ではこちらへ。姫様もどうぞ」

「解った」

「参りましょう」


 アーダルベルトを先頭に、俺達は作戦会議の部屋へと向かった。



*********


 作戦会議室はオフィスの中会議室程度の大きさで、長テーブルが二つ並び、後の方は空席であった。

 俺達が入ると、小さなどよめきが起こる。

 多分俺がいるからだ。

 気恥ずかしさがあり、俺は片を縮めた。


「皆、お待たせした。エリーザ姫の召喚により、再び勇者白夜殿にお越し願った。これより軍議を執り行う」


 注目が集まり、俺は小さく頭を下げる。


「白夜殿、まずは紹介します。西の国、ドルフェトからお越し願ったラクサール将軍」


 アーダルベルトが手を前にして紹介すると、立派な髭を蓄えた四十代ほどの男が素早く立ち上がった。


「勇者殿、アーダルベルト殿より紹介されたラクサールと申す。援軍として馳せ参じた」

「あ、どうも勇者(むず痒い)の白夜です」


 堂々たる自己紹介をするラクサールに気圧されながら、俺はぺこりと挨拶をした。

 すると、ラクサールは拍子抜けした感じでわずかに体を弛緩させた。


「いや、勇者と聞いてどのような方かと思ったが、こうして話してみると市井の者と変わりませんな」


 明け透けなく評価され、俺はジワリと汗と滲ませた。

 いや、しょうがないじゃん。

 俺正しく一般の小市民だもの。

 しかし、アーダルベルトは落ち着いたもので、態度を変えることなくラクサールに向けて口を開く。


「ラクサール殿、確かに白夜殿は武人とはかけ離れた温和な気性の持ち主。しかし、一度剣を持てばその力は一騎当千。前回の防衛線でもたった一人で、敵の大将である巨人と相まみえ、見事討ち果たした強者。今回の作戦においても、その力を遺憾なく発揮し、必ずや我らを勝利へと導いてくれることでしょう」


 おおおい、やめろ。そんなにハードル上げないでくれ! 俺、小市民。極々一般の小市民ですから!

 俺は恐縮しきりであるが、アーダルベルトがこうして体裁を整えてくれた訳だし、このラクサールって人にも不信感を与えて作戦に支障をきたしたら困る。俺は目一杯気を張って、堂々と頷いて見せた。

 まだちょっと納得がいかないといった風なラクサールであったが、アーダルベルトの力は認めているらしく、そのアーダルベルトが言うのならと感じたのか、これ以上何も言うことなく着席した。


「そして、見知っているかとは思いますが、我が国のアントン将軍、クラーク将軍、ダグタフ将軍、トマス将軍であります」


 それぞれの将軍が起立し、俺に挨拶をする。

 うん、前回の時にちょっと顔を見た人がいるな。前は緊急事態で紹介する暇もなかったんだろうけど、知らない人は偶々顔を合わせる機会がなかったのか、あるいはあの戦いに参加できなかった人だろうか。

 簡単な集会を終えて、俺達はいよいよ本格的な作戦会議に入ったのだ。

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