白夜再び過ちを犯す

 分からない。

 一体何がどうなっているんだ?

 俺は額に手を当てた。


「白夜様、どうなさったんですか?」


 困惑している俺を心配してエリーザが声をかける。

 俺は額の汗を拭い、エリーザに問う。


「なあ、こっちの世界と俺の世界では時間の流れが違うみたいなんだけど・・・」

「ええ、その様です」

「それは解ってるの?」

「はい、わたくしが白夜様の世界を垣間見えるというのは伝えたと思いますが、その時もわずかではありますけど、時間にズレがあることが分かりました。ただ、こちらからただ“見る”ことと“世界に存在”することでは全く話が違ってきますから、どれほどのズレが発生するかはハッキリとは分からず・・・」

「あのさ、前回俺が呼ばれた時の時間と、俺の世界に戻ってからの時間に一定の法則がないんだけど、これはどういうことなんだ?」

「・・・」


 エリーザは息を止める。

 あ、これは嫌な予感がする。


「詳しくはわたくしでは分かりません。ですが、召喚は正確には瞬間移動とは違います。ロレンキアと白夜様の世界。この異なる世界を繋ぎ、呼び出す行為なのです。界と界。そして時空間をも歪曲させて道を開くことが召喚なのです」

「・・・」


 そういえば、アインシュタインの相対性理論て、光の速さは一定だとか、そんな理論だっけ? よく知らんけど。だけど、そこに重力? 質量が加わると正確に観測出来ないとかなんとか聞いたことが・・・合ってるよな?

 まあ、それはあくまでも例えだけど、俺の召喚も一定の法則があるのかも知れないけど、何らかの因子が影響して一定の法則が捻じ曲げられているのかもしれない。

 それが“界”を結ぶことなのかは解らないけど。

 それだって優秀な学者が長時間、仮説と実験を続け、頭を捻れば、未知の法則が発見される可能性はあるけど、俺にはとても無理だ。考える時間もない。

 結論。

 俺の世界(今後は地球と言おう)とロレンキアの時間にはズレがある。だが、その流れは一定ではなく、その法則は分からない。

 つまりはそういうことか。

 参ったな、地球の時間の方がロレンキアよりもずっと遅いと思っていたから楽観していたけど、どれくらい遅くなるか分からないのは非常に怖いぞ。

 俺が帰る時、どの程度時間が経っているのだろう。とんでもなく時間が経っていて、絢羽が心配するかもしれない。

 俺が不安になってブツブツと言っていると、エリーザが心配そうに俺を覗き込んだ。


「・・・あの、白夜様?」

「ん、ああごめん」


 ハッとして顔を上げて笑顔を作る。でも、エリーザは今にも泣きそうだ。


「本当に、申し訳ありません。白夜様の事情を知りながら、本当になんとお詫びすればよいのか・・・」

「ああいや、俺の方こそごめん!」

「何故白夜様が謝るのです!」


 俺は泣きそうになっている目の前の女の子の頭を撫で、笑って見せる。


「俺は覚悟してロレンキアに来たんだ。だっていうのにちょっとしたことでおたおたしてさ。情けないよ」

「そんなこと!」

「いいんだ。死ぬ覚悟だってして来たんだから、この程度何だっていうんだ」


 ニッと笑い、頭をぽんぽんと撫でてあげる。

 だけど、エリーザは更に目に涙を溜める。ええ、なんで? やっぱり俺って説得下手くそ? 警察官として不味いじゃん。市民を安心させることができないじゃん!

 俺がショックを受けているとエリーザはポツリと口を開く。


「・・・白夜様は、優しすぎます。そんなことを言われたら、いけないと解りながら、甘えてしまいます」


 そう言って、等々エリーザは口元に手を当てて嗚咽を漏らした。


「えええ!? ご、ごめん! いや、それも違うのか。と、とにかく泣き止んでくれよ」


 ど、ど、ど、どうすれば? こんな時どうすれば? 抱きしめる? ダメだ、それは悪手! 圧倒的悪手! 以前の経験を活かせ。それをやっちゃダメなんだ。だ、だけど他にどうすればいいんだ? 経験不足! 余りにも経験不足。人生の引き出しが俺を助けてくれない。うあああああ、ええい、ままよ!

 俺は再びエリーザを抱きしめた。


「え、はあぁぁ! は、白夜様!?」

「ご、ごめん。だけどこれしか思いつかないんだ! 俺は気にしていない。エリーザも気にする必要はない! 安心して、俺はここにいるから」

「あ、う、はぅう・・・」


 うあああああ! やらかしている。俺、再びやらかしている。ごめん、絢羽。緊急事態、緊急事態だから見逃して!


「は、白夜様!」

「は、はぃい!」


 お互い顔真っ赤で口をパクパクとさせならが上ずった声で受け答えをする。


「あの、あの、もう少し・・・」

「え?」

「もう少し、このままで」

「・・・」


 きゅっと俺の服を掴むエリーザを安心させる為、俺は優しくエリーザを抱きしめた。

 よかった。決してベストではなかったけど、この娘の涙を止めることができて。

 その時、


「白夜殿! 来ていただけたか!」


 アーダルベルトがドアを開けて現れた。


「「!?!?」」


 俺達は硬直した。

 するしかなかった。

 他にリアクションが取りようがなかった。


「・・・何をしておいでか?」

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