戦況
「えっと、色々聞きたいことはあるんだけど、ここ何処?」
俺は周りを見渡す。
恐らくは城ではない。
かといって、どこかの住居にも見えない。
エリーザは答える。
「ここは最終防衛ラインであり、王都から最も近い砦です」
「ああ、俺が来た時に突破された所か」
「その通りです」
なるほどなるほどと、頷いた後に俺は驚く。
「え、じゃあ奪還できたんだな!?」
「はい、みな白夜様のおかげです」
「いやいや、そんなことはないだろう。ここを奪還する時に俺はいなかったんだし」
「いえ、あの戦いで敗れていれば奪還も何もありませんでした。感謝の念に堪えません」
「・・・ありがとう」
大げさな、とも思ったけど、ここで謙遜してもエリーザはずっと言い続けるだろうから、感謝の気持ちを受け取っておく。
「あ、じゃあ前回よりも戦況は悪くないわけだ?」
前回はこの砦が落ちた後に呼ばれた(正確には落ちたと報告されている最中だけど)のだが、今回はその砦にいる。
状況は絶望的ではないということだろう。
だが、エリーザは複雑な顔をする。
「そう、ですね。確かにそう言えるかもしれません。ですが、決して余裕のある状況ではないのです」
俺は頷く。
勿論そうだろう。そうでなければ俺が呼ばれるはずがないからだ。
「現在の状況を説明します。まずフォルキア軍は先の戦いで魔族撤退の機に乗じ、一気に砦を奪還しました。そこまでは良かったのです。ですが」
最後の方でエリーザの声が萎む。
ここからが俺が呼ばれた理由に繋がるのだろう。
口を挟むことなく、俺はじっとエリーザの話に耳を傾ける。
「奪還したまでは良かったのですが、それから魔族の猛攻が始まったのです。ハッキリと解るほどの怒気を孕み、再び砦を奪おうと休みなく攻め立てました」
フォルキアにしてみたらここは元々人間の砦な訳で、ただ取り返しただけなんだけど、魔族側からしたら人間にまた取られたってのが気に入らないんだろう。
俺が戦った一つ目巨人を見ても解るけど、奴らの人間を憎み、蔑む心は非常に強い。人間にやり返されたのが我慢ならないのだろうか?
逆恨みだが、逆鱗に触れてしまったのは間違いない。
「無論、フォルキア軍も負けてはいません。数の上では敵いませんが、こちらは砦がありますから守りやすく、なんとか持ち堪えていたのです。ここで負けては白夜様に合わせる顔がありませんから」
チクリと胸が痛む。
俺に顔向け出来ないと思っているなら、それは逆じゃないのか。俺はこの世界の状況を知っているのに帰ってしまったんだ。
俺のことなんか気にする必要はないのに。
「このままではジリ貧。又も奪われてしまうのは分かっていました。ですから国王は隣国であるドルフェトに援軍を求めたのです」
「ドルフェト?」
「ここから西に位置する国です。国土は我がフォルキアと同程度。ですが、軍事力においてはフォルキアよりも上です」
「へぇ、じゃあ助けに来てくれたんだ?」
「はい、少数ではありますが、呼びかけに応じてくれました。勇者様のおかげで戦況を立て直した我が国に助力することで、ドルフェト国の士気向上、これが世界に広まれば人類全体に希望が取り戻せます。この援軍により、戦況は一気にフォルキア軍に傾きました。このまま魔族を退け、更に国土を奪還できると期待していたのです。ですが」
「そう出来ない何かが起きたんだな?」
忸怩たる思いなのだろう。悔し気に唇を嚙み頷く。
「魔王軍も援軍を呼んだのです。その数、五千」
「ご、五千!」
「因みにドルフェトの援軍は五百です」
十倍じゃないか。
そんな、話にならないぞ。
俺は蒼白になり、気が付けば小さく震えていた。
こんな戦況にも関わらず、毅然とした態度を崩さないエリーザを心底尊敬する。やっぱりお姫様は違うな。
「それでも三度退けました。ですが、おそらく次はありません・・・」
「・・・」
むしろ三度退けたなんて凄いことじゃないか。
戦争なんてよく分からないけど、圧倒的な戦力差にも関わらずよく持ち堪えたと思う。
「この砦が再び落ちれば、また同じ状況で白夜様を呼ばなければなりません。いえ、数の上では前回よりも更に厳しい戦いとなるでしょう。ですので、恥を忍んで白夜様のお力を貸して頂きたく、こうして召喚致した次第です」
「いや、それが正しいよ」
前回と同じ絶体絶命の状況で呼ばれて、それを乗り越えたとしても、今と同じ状況になるだけだ。
フォルキアが盛り返す為には、この砦は絶対に死守しなくてはならない。
「これが白夜様がいなくなってから一ヵ月間の出来事です」
「一ヵ月!?」
どういうことだ?
前回俺が呼ばれた時、この異世界ロンレキアには十時間はいた筈だ。だけど、俺の世界では精々十分から十五分程度の時間しか経っていなかった。
俺が自分の世界に戻って今まで過ごしていた時間は十二日で、こっちでは一ヵ月が経っている。
前回と時間の計算が合わない。
これは一体どういうことだ!?
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