フォルキアでは

 フォルキア軍はどうにか落とされてしまった最終防衛ラインである砦の奪還に成功した。

 しかし、それでも魔王軍の攻勢尽きること無く、アーダルベルトは前線から戻ることもできず、ひたすらに戦いの毎日であった。

 それでも、ようやく奪還した砦だ。

 ここを再び落とされては絶体絶命だったあの時に戻ってしまう。

 この防衛線は何としても死守する必要があった。

 しかし、魔王軍の攻勢は凄まじかった。

 どうも人間が反撃に出たのが彼らの逆鱗に触れてしまったらしい。

 だが、それをいったらこちらも命懸け、崖っぷちなのだ。

 絶対に死守する。


「怯むな!! ここでまた砦を落とされれば元の木阿弥。勇者殿に顔向けできぬぞ」

「おおお!!」


 最初はこの檄で士気は大いに上がった。

 しかし、今はそれほど士気は上がらない。

 それは仕方のないことだ。


「勇者殿は元の世界に帰られてしまったらしいぞ」

「我々は勇者殿に見放されてしまったのか?」

「仕方あるまい。あの方にはあの方の生活があるんだ」

「しかし、勇者殿抜きでこの前線を維持できるのか?」

「おい、維持じゃダメなんだ。俺達はこれから大反撃をしなけりゃいけないんだぞ」


 難しい。

 誰もがそう思った。

 不可能と思わないあたりが彼らの最後の意地であった。

 人類は今、未曾有の危機にある。

 魔王軍は世界の半分を領土とし、更にその勢力を強めている。

 世界中の人間達が今、戦い続けているのだ。

 このフォルキアが人類最初の反撃の国とならなければならない。

 そうすれば、人類はまだ戦いを諦めずにいられるのだ。

 それなのに、現在はこの砦を死守するのが精いっぱい。


「どうすれば・・・」


 アーダルベルトは唇を噛んだ。

 この戦況を打開するにはどうすればいいのだろう。

 やはり白夜にもう一度頼るしかないのか。


「く!」


 アーダルベルトは首を大きく振った。

 何を弱気になっている。

 白夜には白夜の生活がある。

 あの時、良心の呵責を苛まれていたのはエリーザだけではないと言ったアーダルベルトの言葉は心底本音だった。

 彼は戦争など無縁の生活をしており、召喚を嫌って、いや、恐れていた。

 しかし、彼は優しい人間だ。

 乞われれば応じるだろう。

 それは避けたい。

 彼の優しさに付けこむ真似をしたくはなかった。

 もし、もう一度彼を呼ぶ機会があるとすれば、それは魔王を倒し、平和になったフォルキアで、友として酒を飲みかわす時だ。

 負けられない。いや、勝つのだ。

 そんな思いに駆られている時、砦の外側にいたモンスター達が後退しているのが確認された。

 今日の攻撃は終わったのか?

 まだ日は高い。

 夜襲をかける為に早く引いた?


「報告します!」

「何事だ、一体何があった?」


 一人の兵がやって来てアーダルベルトの前で膝をつき、声を張り上げた。


「西の国、ドルフェトより、援軍が到着いたしました。数は500」

「ドルフェトだと!?」

「既に彼らは西側のモンスターを駆逐し、こちらに向かっているとのこと」

「「「「「おおおおおおおおおおお!!」」」」」


 これはまたとない援軍だ。

 数の上では大したことはないが、彼らも自分達の国で精いっぱいだというのに、それを押してこちらに援軍に来てくれたのだ。

 これは単なる善意ではない。

 勇者の召喚によりモンスターを押し返したフォルキアに勝たせることで、世界中の人類を鼓舞する材料とするつもりだろう。

 おそらくこれは王城にいる王、或いはエリーザ姫の政治的な駆け引きによるものだ。

 なんにしても、士気が低下している最中でこの援軍は大きい。

 これで一気に流れはこちらに傾いた。

 勝てる。

 その喜びがいつの間にか拳を握り締めていた。


「勝てる。この戦、勝てるぞおぉぉ!!!!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」


 兵士達は互いにお互いを鼓舞しあい、拳を上へと突き上げた。

 士気は留まることなく上がり続け、疲労は一時的にだが消え去った。

 この戦を皮切りに、人間側が勝利を重ねていける。

 絶対に落とせないこの戦い、必ず勝利してみせる。

 アーダルベルトは強く自分に言い聞かせた。


*********


 フォルキア城にその使者が赴いたのは、ドルフェトの援軍が駆けつけてから3日後のことであった。

 フォルキア王の呼びかけにより動いてくれた援軍到着の知らせは既に届いている。

 怒涛の反撃ののろしが上がったとのことなので、王城も歓喜に沸いた。

 だが、たった今現れた使者は全身傷だらけで息も絶え絶えであった。

 誰もが驚いた。

 これではまるで敗戦の兵だ。

 勝っていたのではないのか?

 戸惑う謁見の間にて、その報告を聞いた老王は、立ち上がって王冠を落としたという。

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