同棲への道のり
「ただいま~」
あれから直接警察署に出勤し、それから交番に向かった俺は、そのまま勤務に就いた。
とはいえ、やはり長時間の運転に加え、昨日の気疲れに寝不足で疲れていた俺はよろよろになって家まで帰って来た。
すると、パタパタとスリッパの音がして、玄関までわざわざ絢羽がやって来てくれた。
「おかえりー」
そう言って手を広げてハグをした後に軽くキスをする。
同棲してからずっと続けてきた挨拶を交わす。
「ご飯にする? お風呂にする? そ~れ~と~も、わ・た・し?」
「ん~、風呂にするかなあ」
そう言って俺はそそくさと自室に向かう。
すると後ろから絢羽が蹴りを入れてきた。
「イテ」
「ふーんだ」
「なんだよ?」
蹴られた尻をさすりながら文句を言うと、絢羽は分かりやすくむくれていた。
「つまんない。初めは顔を赤くして照れてたのに」
「いや、もう何回も続ければ慣れてもくるさ」
俺と絢羽が同棲して早半年。このやりとりにも耐性が出来上がっている。
今さら初々しく照れたりはしないのだ。
それが絢羽には気に食わないらしい。
「つまんなーい」
もう一度口を尖らせた。
「悪い。ちょっと疲れちゃってさ」
ちょっとはにかんで見せたのだが、拗ねて可愛らしい顔から一転、心配になったのか、顔が曇る。
「ご実家で何かあった?」
「いや、あー、ちょっと気を使って疲れた」
丸っきり何もないと言うのは夫婦としてどうかと思ったので、全てではないが、嘘ではないざっくりとした説明をしたのだが、絢羽はそれでは納得しない。
神妙な顔を作る。
「お風呂出たらちゃんと聞かせてね」
「・・・分かった。なるべく早く出るよ」
「ダーメ! ゆっくり浸かって」
「あい」
やっぱり心配させちゃったかな。
もっと上手く流した方が良かっただろうか。
とりま、脱衣所に向かい服を脱ぎ、そのまま風呂に入る。
身体を軽く流してからゆっくりと湯船に浸かった。
「ふぅ~」
もう実家の風呂よりもこっちの風呂の方が慣れて久しいな。
溶けるわぁ~。
昨日は色々あり過ぎて疲れたし、今日はその疲れが溜まったまま仕事をしたからなあ。
やっと家についてリラックスできた。
湯舟、丁度いい熱さだな。
俺が帰る時間はそれ程ズレないとはいえ、常に丁度いい温度のお湯がはられている。
本当に、よく気が利くお嫁さんだなあ。
俺には本当にもったいない。
さて、絢羽の気遣いに甘えてゆっくりとあったまりますかね。
*********
「お先~」
「うん」
ホカホカ状態で出た俺は、髪をわしわしとタオルで拭きながら絢羽が作ってくれた料理を見た。
ポークソテーにコールスロー。それにコーンスープか。
俺たち二人は半年前からこの新居ではない賃貸アパートで同居を始めている。
結婚して本格的に新居に住む前に、慣らしておきたかったし、相思相愛でもいざ住んでみたら相手の知らない一面が見えてきて、婚姻解消ってなったパターンも多数存在する。
まあ、俺達は? そんな可能性は限りなくゼロだと思うし? いや、あり得ないが、それでも見えてくる部分はあると思ってお試し新婚生活を始めていた。
そこでやはり見えなかった部分が見えてきた。
俺は自分がズボラだと思ったことは無い。
だけど、絢羽を見ていると、俺がズボラだったと認めざるを得なかった。
まず絢羽は凄く几帳面だった。
気が付いた細々とした汚れはすぐに綺麗にしないと気が済まない。
俺は週末、仕事が無い時にまとめてやる派なんだけど、それが嫌なようだ。
逆に俺は家財の配置にこだわるタイプらしい。
機能美って言える程ではないけど、生活をしやすい様にテレビの位置を始めとした電化器具、机やタンス等々一連の動作で事が済むように工夫していたが、絢羽は“機能美”よりも“可愛い”を追求した。
可愛い、オシャレに重きを置き、その為にはある程度不便だとしても受け入れる。
その辺り、ちょっと揉めたが基調は可愛く、それでいて、俺の意見をある程度取り入れた配置で家具を整えた。
あと結構揉めたのが料理だ。
やっぱりというべきか、二人の味の好みが全くの正反対なのには困った。
俺は割と味付けは濃い目。
絢羽は薄目だった。
料理は当番制にして俺も作った。
まあ、俺は仕事で上手く帰れるか分からないので大抵は絢羽になってしまうのだが、俺も出来る限り家事を手伝った。
しかし、この味付けにはどうしても埋めがたい差があり、その度に味付けで意見が食い違った。
殆どが絢羽の調理なので、絢羽の味付けに統一するかとも考えたが、それでは納得できない。
俺にも俺の意地があった。
くだらないと思う時もあったが、やっぱり料理は毎日食べるものだから、時には自分が食べて美味しい料理が食べたい。
その結果、俺達はしばらく外食した。
主にファミレスの料理を食べ続けた。
何故そんなことをしたのかといえば、やはりファミレスは大衆向けの味付けをしているので、これが平均だとお互いに納得させる為だ。
しばらく食べて「まあ、こんなもんか」と味の統一を図った。
味付けがファミレスは甘めというお互いの共通の意見はあったものの、そこはお子様も食べるのでやっぱり甘めなんだろうと考え、まだ子供のいなかった俺達は砂糖やみりんを控えめの味付けをして、その辺りを妥協点として、落ち着いた。
こうして、なんとかこうにか俺達は生活の基盤を作ることが出来たのだ。
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