闇に潜む魔族
そこは暗い暗い洞窟の最奥だった。
洞窟内はかび臭く、ぽたりぽたりと水滴が垂れてた。
とてもではないが、人が快適に過ごせる場所ではない。
それはモンスターでも、同じだろうと人間なら考える筈だ。
だが、その最奥は全く雰囲気が違っていた。
工事され、きちんと管理された湿度を保っているアトリエがあり、この空間には至る所に異形のモンスター、いわゆるキメラが生命維持魔導保管器に入れられていた。
下半身、上半身、顔などまるで違う部位を組み合わせた者、一部だけが欠けた者など、その種類に法則性は無く、千差万別。
殆どが死んでしまっているが、中には生きている者もいた。
このキメラ達こそが先の戦争でゴブリンと共に主戦力となったモンスターである。
そんな容器の中で、一人だけ意識があり、ぼこぼこと口で泡を吐き出しながらそれでも言葉を話す存在がいた。
「ぐおおおお!! 許さねえ。絶対に許さねえぞあの野郎。あの勇者め。殺す。絶対に殺す。この俺の憎しみが消えるまで、殺し続けてやるう!!」
それは蒼穹にやられた筈の一つ目巨人ダヴァだった。
あの時斬られた筈なのだが、この巨人は生きていた。
無論、瀕死ではあったが、上位のモンスターの生命力は伊達ではなかった。
下位のモンスターは死んでしまった後は、異常に速く大地に吸収された消えてしまうが、上位のモンスターは違う。しばらくは生き続けるのだ。
モンスターは速やかに消えてしまうと認識していた人類側は、この巨人を回収しようとは考えなかったのだ。
ただ、死ななかっただけで身動きが取れるハ筈もなく、あのまま放置されれば結局は死ぬはずだった。
しかし、そうはならず、巨人は回収され、この治療できるカプセルに入り回復を待っている。
勿論、回収した者がいる訳で。
「うるさいなー。もう少し静かにしてよ」
「これが黙っていられるか! 許さん、あの勇者をわしは決して許さん。さあ、早くわしを元の姿まで回復させるのだ」
「うん無理」
「き、貴様ーー!!」
大声で吼える巨人の怒声を受けて、もう一人の人物は耳に指を突っ込んだ。
「だからうるさいってば。喋るなとは言わないよ? だからいちいち大声を出すの止めて欲しいな」
「貴様ぁー!!」
尚も吼える巨人に、もう一人の人物はため息をもらす。
「一応僕は君を助けた命の恩人なんだけどね。もう少し感謝してもいい筈だよ」
「黙れ。この世界を全て手に入れるのが魔王様の悲願。わしがその覇道に必要なのだから、復活させるのは必然だ」
「・・・あまり調子に乗るなよ。くそ雑魚が」
「う!」
これまで飄々と構えていた人物の態度が一変した。
その空気に当てられて巨人は押し黙る。
「言っておくけどね、君なんて魔王様の幹部の中じゃ最弱なんだよ。あのまま放置してもよかったんだ。それともこのまま蘇生カプセルを止めようか? まだ、自立できる程回復してはいないんだからね」
「わ、わかった。わしも気が荒ぶっていたようだ。謝罪する」
一転して弱気になった巨人に、強いプレッシャーを放っていた人物は、再び気味が悪い程温和な笑顔を向けた。
「うん、それでいいんだ。仲良くやろうよ。ああ、それとね、一つ情報があるんだ。その肝心の勇者なんだけど、人間軍の中にはどうもいないみたいなんだよ」
「何! それはどういうことだ?」
意外な報告に巨人は面っ食らった。
復活したとしても肝心の勇者がいないのであればこの怒りを向ける相手がいないではないか。
代わりに人間を殺しまくるか? いや、それではこの怒りは収まらない。
勇者だ。
一度自分を殺害せしめたあの男を、この手で殺さなくては。
「他のモンスターに先を越されたのか?」
この質問に飄々ともう一人の人物は首を振る。
その面白がっている態度は業腹ではあるが、あの圧力は本物だし、本当に蘇生カプセルを停止されてはかなわない。今は従っていよう。
「そんな報告はないよ。勇者を倒したとなれば必ず報告があるはずだけど、それがない。もしかすると人間側にトラブルがあったのかもしれないね」
「一体何が?」
「そこまでは解らないよ。それこそ可能性は無限にある。勇者の力を危惧した王族、貴族の手によって殺されたとか。元の世界に帰ったのか。何らかの事故であっけなく死んだのか。ただ我々の情報網にかかっていないだけなのか。僕が思いつくだけでも十数個考えられるよ」
「・・・今の中の可能性だと、情報にかからずにどこかに潜んでいる可能性が高いと思うが」
「うん。僕もそう思うよ」
二人の意見は一致した。
貴族などに脅威と捉えられ、暗殺を目論まれたとしても、今は一度勝利を収めただけで、未だ人間軍が劣勢であり、このタイミングで最大戦力である勇者を切り捨てるなどまずあり得ないのだ。
最終的に暗殺するにしても、それは今ではないだろう。
では、元の世界に帰還したという可能性はどうか?
これも考えにくい。
理由は暗殺説と同じで、このタイミングで帰っては折角の勝利が無駄になってしまうだろうからだ。
ならば、やはり隠れ潜み、力を蓄えていると考えるのが一番自然だ。
無論、可能性は無限にあり、おそろしく突飛な理由でいなくなったということもあるだろう。
笑えるところでは階段に躓いて死んでしまったなんて馬鹿馬鹿しい可能性も零ではないのだ。
「僕らが心配しなければならないのは、どこかに潜んで虎視眈々とこちらの様子を窺っているものだと思うよ。こちらが攻めたらそれこそが罠で、とんでもないカウンターを食らってしまうなんて失態を犯してしまうかもしれないからね」
巨人は非常に苦々し気に奥歯を噛みしめた。
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