考察

 幻夜は俺に宗主を継がせようとしている。

 つまり、俺に最終奥義、極伝まで伝授しようとしているのだ。

 だけど、その為には誰かとの稽古は必須であり、それをすれば俺のスキルは自動的にバレてしまう。

 それは防がなければならない。

 問題は俺の私生活についてだ。

 普通に生きていれば必要ではないし、発動する機会もまずないスキルだ。

 身体能力強化も力加減を間違えなければ、人を傷つけることはないだろうし、動体視力や反射神経の極端な向上もそれほど問題じゃないだろう。

 だけど、俺が警察官だってことが問題だ。

 刑事ドラマじゃあるまいし、犯人との追いかけっこなど、まず起こらないとは思うけど、絶対ないとは言い切れない。

 絢羽には心配ないとは言ったけど、やっぱり荒事もある。

 一番あるのが酔っ払いの喧嘩の仲裁とかだけど、自制心が緩くなっている分、たまに暴力を振るう奴もいるからな。

 もし、もしだ、俺に酔っ払いや凶悪犯が殴りかかったとしたら、傷つくのは殴った側だ。

 俺に拳が当たったら、拳が吹き飛ぶ。あるいは腕までが消えてなくなる。

 病院にすぐ担がれたとしても、重体、あるいは死んでしまう。

 ゾワリと身体が震えた。

 そうなれば俺は殺人犯か?

 まさか、俺のスキルを説明する訳にはいかないし、したとしても誰も信じる訳がない。

 そんなことを言えば俺の妄言と捉えられるだろうし、最悪薬物中毒の疑いがかけられかねない。

 やっぱり異世界の出来事ってことで、俺は感覚がどこか麻痺していたんだ。

 俺が異世界でしたことはれっきとした殺しだ。

 モンスターだから、人間じゃないから殺してもいいなんて、そんなはずがない。

 人里に現れた熊とかを射殺するシーンを見ても、胸糞が悪いからな。

 ・・・考えが脱線したか。

 どうする?

 職場を事務仕事に変えてもらうか。

 結婚したから危ない仕事には就きたくないと言えば、周りは一応納得するだろう。

 絢羽も安心する。

 勿論、俺なりに信念はあった。

 お巡りさんとして、市民の声を直接聞いて、人の役に立ちたい。

 交通違反の取り締まりで、いいイメージを持たれない警察だけど、それでも、誰かの役に立ちたいって思いは皆持ってると思うんだ。

 でも、それだって俺の生活を賭けてまでやることもないだろう。

 一番いいのはもう一度異世界に行って、このスキルを無くしてしまうことだけど。

 俺が異世界に行くってことは=再び戦うってことだ。

 それは、嫌だな。

 絢羽が知れば、絶対に反対するだろう。

 俺だって命は賭けたくない。

 でも、これはエリーザとの約束なんだ。

 もし、もう一度呼ばれたら、俺は戦う。

 自分の命を賭けてでも、再びモンスターを殺すことになっても、これは絶対だ。

 あの娘を、絶対に死なせはしない。

 色々揺れてしまっている俺の心だけど、これだけは守る。

 とはいえ、スキルを解除してしまっては、俺なんか力になれるはずがない。

 例え白夜永命流を駆使したとしても、そんなの戦場でどれほど役に立つかは微妙だし。しかも、俺は途中で修業を投げ出してしまった腰抜けだ。

 一対一の戦いならともかく、集団戦なんて経験はない。

 一番いいのは異世界に行ったらスキルが使えて、こっちに戻ったら解除されているってのが理想なんだけど。

 当然、俺はこっちに戻ってくる時は、スキルは消えていると思っていたんだけどな。果たして上手くいくだろうか?

 エリーザには頼むけど、あの娘自身、俺のスキルをよく解ってなかったしな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る