特性
あ、やばいかなこれ。
なんたって異世界に行ってあれだけ色々あったんだ。
現代の日本人ではまず味わえない(味わいたくはないが)本当の修羅場に遭遇すれば逞しくもなるだろう。
大樹も不思議そうに俺を見た。
手を合わせたこいつにも、俺が変わったのが解ったのか、覗き込むような視線を感じる。
巌は大きく頷いた。
「男子、三日合わざれば刮目せよというが、なるほど。結婚式で見た時から、お前は何かが変わっていた。結婚がお前を変えたのか?」
「まあ、そうかな。俺にも護る人が出来たし」
上手い、父さん。
気が付いてないだろうけど、ある意味ナイスフォローだ。俺が結婚したことで変わったとアピールできた。
それで三人は説得できたかもしれないが、やはりというべきか、幻夜だけは納得してはいない様子だった。その上で、幻夜は頷いた。
「まあよい。今回はここまでとしよう。だがな、蒼穹よ、予言しよう。お前は必ず白夜永命流の業を求め、もう一度ここにやって来る」
「・・・あり得ないですよ」
この老人が言うと否応のない説得力がある。
そうなってしまうのかと思いつつも、俺は精一杯の虚勢を張った。
「もう休みます。明日は早く出るんで」
この状況では清もこれから稽古とは言い出さないだろう。
いや、もしかしたら言い出す可能性も零じゃない。
そうなる前にさっさと部屋に戻ろう。
「・・・蒼穹」
大樹が何か言いたげではあったが無視。
さっさと俺は道場を後にした。
*********
「はぁ」
懐かしい天井を見上げながら、俺は小さくため息をつく。
ひどく疲れる一日だったな。
だけど、本当にどうしようか。
幻夜がそう簡単に諦めるとは思えないし、あの予言も気になる。
あれは俺を惑わす幻夜の策なのかもしれない。
あの人は気遣いなんてしないだろうし、大樹がどんなに頼んでも俺の方が白夜永命流に相応しいと判断したら、迷わず俺を指名するだろう。
清は抵抗をする可能性はあるが、最終的には従うだろうし、巌は幻夜に付くだろうしな。
白夜永命流は警察に顔が効くし、剣道の顧問的な役割も担っている。
巌はかつて剣道全国大会優勝者だから顔も聞くし、俺の包囲網は狭まってきていると考えていいだろう。
警察を辞めると担架を切った俺の思いは本物だけど、なるべくなら辞めたくないしなあ。
結婚早々無職で職探しなんてしたくないし。
絢羽に苦労はさせたくない。
それに大樹の件。
あいつの俺への憎しみは相当なもんだな。
もしあのまま候死突が決まっていれば、本当なら俺は重症、或いは本当に死んでいたかもしれないんだ。
本気で殺す気でいたかは微妙だ。
あいつ、頭に血が上っていて、自分でも抑えが効かないからな。
もしかすると、幻夜はその大樹の性格が問題だと思っているのかもしれない。
どの流派でも自制心が効かない者には上に立つ資格はない。
うちの流派には門下生はおらず、教える相手は親類縁者ばかりだけど、それだって宗主となる人物がああもカッカした性格じゃ問題だしな。
それはこれから養っていければいいと思わなくもないけど、二十歳過ぎの人間にそれが出来るかなんとも微妙だ。
それこそあいつが異世界に行けばいいんじゃないか?
一皮剥けるかもしれないぞ。
『優しくない者に“破壊”のスキルは授かるべきではない』
エリーザはそう言っていたな。
確かにあいつは自己顕示欲が強いから、もしかしたら増長する可能性もある。
ああ、そうそう、これが一番問題だ。
俺のスキル“破壊”の件だ。
やっぱり持ち帰っていたんだ。
俺に害意を持つ者の攻撃は例え武器を通してでも破壊してしまう。
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