蒼穹と大樹
大樹は舌打ちをすると、少し闘志が弱まったかに見えた。
こいつだってこんな兄弟喧嘩を逸脱した行為で咎められたくはないだろう。
だけど、俺は甘かった。
こいつの俺に対する不満、憎しみがここまで強いとは想像していなかった。
弱まった闘志を感じ、気を緩めたのが失敗だった。
再び大樹は闘志を漲らせ、構えを取る。
「おい止めろ馬鹿! それは」
白夜永命流 中伝 四の剣
低い状態からの刺突。
その狙いは文字通り喉仏。
馬鹿な、本当に殺すつもりか!?
「や、やめろーーーーーーー!!」
「食らえ!!」
死を感じた時、俺の能力は飛躍的に高まった。
鋭い速度の刺突が実にハッキリと見え、身体が軽くなる。
あの巨人を相手にした時と同じだ。
妙に冷静になる。
こんな一面が俺にあったなんて。
下から上への刺突を片膝を曲げて避けつつ、木刀を絡めて上へと跳ね上げる。
白夜永命流 初伝 二の剣
本来ならば、剣を上へと跳ね上げ、武装解除させつつ、相手の腕にも関節を加える技だが、絡めて上へと力を加えた段階で、木刀が粉砕した。
「な!」
やっぱり、破壊の能力も!
「舐めた真似を」
大樹は折れた木刀でそのまま俺に斬りかかろうとしたが、
「何をやっておるかーー!!」
清が大声で怒鳴った。
俺達はビクリと身体を震わせた。
俺もびっくりしたけど、大樹は怯えた表情を見せた。
そんな顔をするくらいなら俺に突っかかるなよ。
こいつはすぐに頭に血が上るのが難点だ。後先を考えない。
才能のあるこいつが何故俺に劣等感を感じるのか、それはお前のそういう所なんだぞ。言っても聞かないだろうけど。
清は凄い剣幕で俺達を睨む。
「俺がいない間に勝手に始めたのか。しかも、死合を」
「・・・おじい様。これは」
清に続き、巌も後ろからやって来た。
俺の稽古を見に来たのだろう。
巌は折れた木刀を見て、小さく「ほぅ」と少し驚いた声を出した。
清も当然気が付き、折れた、というか砕けた木刀を見た。
「誰がやった?」
「蒼穹です!」
大樹が大声で俺を指さした。
「蒼穹が木刀を砕いた!!」
おい、何俺が罪を犯した犯人みたいないい方をしてるんだよ。
「「ほう」」
二人は声を合わせて驚く。
「じゃあ、死合いを仕掛けたのは誰だ?」
「そ、それは」
もしかして、木刀が壊れた件で有耶無耶に出来ると思ったのか? その問いに大樹は言葉を詰まらせた。
俺も手を後ろに回して頭をかく。
「やっぱり大樹、お前かい?」
「そ、蒼穹が俺を煽って」
「おい、適当な嘘をつくなよ」
こいつ、子供の頃から変わってないなあ。頭にきてゲームのコントローラーを投げつけた所とか、それを俺のせいにする所とか。
大樹は俺を見ると目元を引くつかせた。
まさかこいつ、話を合わせろとか考えてるんじゃないだろうな? いや、どんだけ俺がお人好しだと思ってるんだよ。
ああいや、そっちの方がいいかもな。こいつに情けをかけるというよりも、これ以上こいつに恨まれて(完全に逆恨みだが)揉めたくないし。
「・・・煽ったというか、こいつの気を逆立てたのは事実だよ」
清はなが~く、巌は小さくため息をついた。その時のありさまが容易に想像できたのだろう。
が、大樹はそれには気が付かず、何故かそら見た事かいう風にドヤ顔をした。イラ。
「つーかよ」
清は折れた木刀の先端を拾って訝し気な表情で問いかける。
「どうすればこんな割れ方になるんだ? なんつーかこう爆砕って感じだが」
困った。
木刀同士の打ち合いではひび割れとか、折れると等の事故は起こるだろうけど、衝突部分が粉砕されるなんて物理現象は起こり得ない。さて、どう説明するべきか。
いや、よく考えたらこの後の稽古をどうやり過ごそうか?
「・・・それは蒼穹が蜷局巻で」
「ああ? 蜷局巻でこうなるかぁ?」
清は破片を持って首を捻った。
本来であれば絶対に蜷局巻ではこうならないからな。
「蒼穹、お前どうやったんだ?」
「いや、型通りに下から打ち上げたんだよ?」
これこそスキル“すっとぼけ”だ。
こうなれば俺にもわかりませんで通すしかないだろう。
その時、
「ほお、なるほどのぅ」
「え!?」
幻夜が道場に現れた。
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