大樹との戦い

 余りにも拡大解釈しすぎだろう。

 なんで一人でその結論に達して一人で怒ってるんだ?

 自意識過剰もいいところだ。

 でも、俺の態度もよくなかったな。

 こいつは家の流派に誇りを持っている。

 俺にとってはどうでもいいんだけど、血族のみに受け継がれる流派ってのがこいつの琴線に激しくフィットしているらしい。

 それにこいつは幻夜を神聖視している。

 幻夜の過去の功績が今日の白夜家の繁栄に繋がっていると考えており、それは決して間違いではない。

 うーん。ちょっと中二な感じがこいつは気に入ってるのか? そろそろそういったのも卒業しろよ。

 まあ、こいつに『やーい、中二乙』とか言えば激高するな。いや、言わんけど。


「蒼穹、中伝辺りで修業を止め、家を出て行ったお前に俺の苦労は解らないだろう。いつまでそうやって上から目線でものを言うつもりだ」

「いや、思ってないって」


 正直に言えば呆れてしまったのだが、それを態度には出さない。

 それをすればこいつがどれだけ怒り狂うか容易に想像できるからだ。

 なのだが、無意識に態度に出てしまったのか、或いはまたしてもこいつの自意識過剰か、俺が余裕ぶっている様に見えたらしい。

 さらに苛立たし気に三度舌打ちした。

 そして、壁にかけてある木刀をこちらに放り投げる。


「おっと」


 思わず取ってしまった。

 すると大樹は構えを取る。


「構えろよ。俺がどれだけ成長し、お前を超えたのか証明してやる」

「ち、ちょっと待てよ。お前が俺よりも強いのなんて当たり前だろう。お前はずっと修行を続けていて、俺は途中で抜けたんだぞ? 敵うはずがない!」

「修行を続けていれば自分の方が上だと言いたいのか!」

「くそ、いい加減にしろ!!」


 俺もいい加減イラついてきた。

 流石に限界だ。

 こいつは俺を目の敵にしていて、俺が何を言っても悪い方向に取り、そもそも俺と友好的な話をするつもりが初めからないのだ。

 こうまで言われて黙っている程、俺はお人好しではないらしい。


「そもそも、お前は俺がいなくなって嬉しいだろうが」

「なん、だと? もう一度言ってみろ!」

「基本、白夜永命流は皆伝から上の極伝まで受け継げるのはたった一人、俺がいなくなったことでその継承権はお前に映った。何が気に入らないんだ」

「・・・そうやって」


 大樹はブルリと震えた。

 あ、やばい。

 失敗した。

 ここまで煽る必要はなかった。

 俺もまだまだ人間が出来ていないな。


「そうやっていつもいつも上から目線。お前の方がなんでも上、俺はそのおこぼれを預かってるみたいに思われて、俺がどれだけ努力をしてきたのか」

「ま、待て。今のは俺が悪かった。お前の努力はお前だけのものだ。誰にも否定できないよ」

「黙れぇ!!」

「!!」


 そう言うと話し合いは終わりとばかりに大樹は木刀を振り上げた。


「ま、待て」


 ブン!


 躊躇なく振り下ろしてきた。

 俺はそれをギリギリで躱す。


「!」


 大樹はそれに驚いた。

 完全に虚を突く形となった一撃を躱されたのだ。

 驚くのも無理はないだろう。

 これも俺が持ち帰ってしまった、異能の力。

 どうやら動体視力などを含めた反射神経も上昇しているらしい。

 そういえば、アンナに斬りかかられた時も、剣の軌跡はしっかりと捉えていた。

 あの時は驚きの余り、身体が硬直してしまっていたが、今度はよく知る身内ってこともあって反応することができた。

 もっとも、これが大樹の気に障ったのは言うまでもなく、さらに怒りを強めると、木刀を振り上げ斬りかかる。


「ま、待て話を聞けって!」

「うるさい。だったらまずは一撃食らって見せろ!」

「冗談じゃないぞ!」


 ブンブン大樹は木刀を振り回す。

 流石にこれまで修行を続けてきただけのことはある。

 頭に血が上っていたとしても剣の冴えそのものは失ってはいない。

 俺が身体能力強化されていなければとっくに一撃食らっていたはずだ。

 竹刀ではなく、木刀で、しかも防具なし。冗談じゃ済まないぞ。死ぬ可能性だってある。


「く、止めろ大樹」

「うるさい!」

「解ってるのか? 木刀で叩かれたらただじゃ済まないんだぞ?」

「望むところだ!」

「勝手に決めるな。俺は全然望んでないぞ!」

「なら、俺から一本取るんだな!!」

「く、分からず屋め」


 破壊のスキルは防御面でしか発動しないというのが、エリーザの考えだ。

 確かに俺の方から攻撃したモンスターは剣の斬撃による裂傷で死んでいて、攻撃を受けた時の様な、不可思議な死に方はしなかった。

 だから、俺がお灸をすえる意味で、大樹から一本取って終わらせる手もなくはない。

 だが、まだ能力に慣れておらず、振り回されている段階の俺では力いっぱい殴ることは出来ても、手加減して攻撃するなんて芸当は非常に困難だ。

 グラスをそっと握る手加減とは違うだろう。

 だからしばらくこの力に気が付かなかったんだろう。

 そ~っと当てるなんてふざけた攻撃が通用するはずもないし、それを大樹が木刀で払ったとしたら、大樹の木刀の方が破壊されてしまう可能性がある。

 それではマズいのだ。

 そんな現象が起こること自体が異常なのだから。

 この状況を打破するにはどうすればいい?

 俺からの攻撃は危険すぎる。

 かといって、受ける訳にもいかない。

 苛烈に攻め立てる大樹の攻撃を躱し続けるしかないのか。

 そういえばもうすぐ清じーちゃんが戻って来る頃だろう。

 そうなれば大樹の暴走を止めてくれるはずだ。

 それまで逃げ回るしか思いつかない。

 早く戻って来てくれじーちゃん。長くは持たないぞ。

 木刀で受けれるならば、ある程度は持ちこたえられる自信があるけど、全て躱す等至難の業だ。

 なんといっても道場という空間は避け続けるには狭すぎる。

 そんなことを考えていると、大樹のイライラは限界を迎えつつあるらしい。

 顔を真っ赤にさせ血管が浮き出ていた。


「ふざけるな。やる気がないのか!」

「ある訳ないだろ。もうすぐ清じーちゃんが戻って来るぞ。今のこの状況を見たらどうなると思う?」

「っつ、くそ!」

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