バッティングセンター
俺は昔ながらのバッティングセンターに来ていた。
平日の昼間だからだろう、今は人が誰もいない。好都合だ。
店員さんはレジの後ろのある小型テレビを観ている様だ。
問題なし。
スピードが80㎏のボックスに入り、小銭を入れる。
まずは一球、投球マシーンからボールが投げられる。
一番遅いスピードだとボールは若干放物線を描きながら俺の後ろにある衝撃吸収ゴムに当たった。
「よし、まずはここで」
一度息を整え、次に飛んできたボールを手でキャッチした。
「っと」
遅い、手軽にキャッチできた。
これは動体視力も上がってるな、軟球の握り線をハッキリと見ることが出来た。
掴んだ手を見ると、ほんの少し赤くなっているが、痛いとは感じなかったな。
グローブなしで80㎏を掴んでなんともないものだろうか? 実際に試した経験なんてないんで何ともいえないが、この程度では済まないと思う。
多分、身体自身が強化されているんだ。
それで肝心のボールだけど。
「壊れてない、か」
さて、これはどう考えたらいいだろうか?
1 ダメージが軽かった。
2 相手に殺意が無かった。
3 そもそもこっちの世界に破壊のスキルは持ち込めていない。
うーん、考えられるのはこんな所か?
取りあえず、このボックスでは分からないか。
ビュンと、次のボールが飛んできた。
せっかくお金を入れたんだ。
検証は終わったけど、このまま出るのは勿体ないな。
バットを握り、構える。
うーん、バットを振るなんて何年ぶりだ?
ビュンとマシーンからボールが投げられた。
思い切りバットを振る。
スカ。
「あれ?」
凄く飛ぶのをイメージしたんだけど。
もう一度飛んできた。
今度こそ。
スカ。
あれれ?
何でだろう?
ビュン。
あ、次がきた。
「よっと」
ちょっと遅れて振ってみた。
カーーーン。
「お、当たった?」
当たったボールは見事高々と舞い上がり、シュルシュルと網に当たっても回転を止めなかった。
「おお、すげー」
ああ、なるほど。
振るタイミング早かったのか。
これまで振っていた時のタイミングと、強化された今の身体で振るタイミングが違うんだ。
なるほど、それならば。
ビュンと、再び飛んできた。
よし、まだだ。
溜めて、溜めて。
「ここだ!」
カーーーン。
よし、当たった。
力をセーブしつつバットに当てたのだが、ボールは勢いよく舞い上がる。
再びボールはネットに絡まる様に飛んで行った。
おお、気持ちいい。
ストレスが溜まった社会人がたまにバッティングセンターに来る理由が分かった気がする。
俺は一応ボールを全て終わるまで打ち続けた。
さてと、では次だ。
ゴクリと唾を飲みこみ、俺は一番端の150㎏のボックスに入った。
ガシャンガシャンと小銭を入れ、再び店員さんがこっちを見ていないことを確認すると、飛んできた球を見定める。
うお、はえぇ。
ボールは俺を通り過ぎ、バンと勢いよく衝撃吸収ゴムに当たった。
当たり前だけど80㎏とは比べ物にならない速度だ。
再び飛んできた。
やっぱり速い。
だけど、全く見えない訳じゃないぞ。
学生の頃にお遊びで来た時は全く見えずに、全力で振ってもカスッた程度だったのに。
よし、じゃあここからが本番だ。
手を出して、飛んでくるボールを見極める。
ぶっちゃけると怖い。
心臓がドクンドクンと高鳴る。
ボールが勢いよく飛んできた。
後には引けない。
集中するとボールはよりハッキリ見えた。
手の中心で受けないと間違いなく怪我をする。
指に当たれば突き指じゃ済まないかもしれない。
高められた動体視力をフルに使い。
150㎏のボールを掴んだ。
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