別れ

「透過して物を見るレンズなどはどうかな?」

「ごふぅ!」


 食欲の次は性欲、だと?

 この人分かっていらっしゃる。

 真っ先にエロい使用法を考えた俺はダメ人間ですか? だってしかたないじゃん男の子だもの。


「おお、どうやらお気に召したかの?」

「・・・白夜様」

「いや違いますから。エリーザもそんな目で見ないでくれ」


 ピュアな娘だけに、俺を汚れた物みたいに見るのをやめてほしい。地味にダメージがでかい。


『そ~ら~? ふふふ』


 ああ、俺の脳内絢羽の目が怖い。これから俺はずっと脳内絢羽を気にして生きていかなければならないのか!


「報酬は置いておいて、エリーザに話していた物語が続きなんですよ。他の物語も聞かせてあげたい。だからまた来るのはやぶさかじゃありません」

「白夜様?」

「おお、でわ!」


 エリーザと王様、他にもアーダルベルトは歓喜の表情を浮かべた。


「ですが、勇者、人間兵器として呼ばれるのはごめんです。そんな理由で呼ばないでください」

『・・・』


 一瞬湧いた広間の空気が再び静まり返った。

 それではお姫様専属の吟遊詩人とさして変わらない。

 エリーザはそれでも喜んでくれているが、他の人が望むのは俺の戦闘力なんだ。

 そんなことは解っている。

 まあ、だからその、


「・・・ただ、エリーザが俺の話を聞きたいと思った時が、『たまたまモンスターの脅威が差し迫っている時』なら、火の粉は払わないといけませんけどね」

「え?」


 エリーザは目をパチクリとさせ、何人かは首を傾げるが、多くの人は苦笑しながら俺を見た。


「お主、中々建前を気にする人間なんじゃな。面倒くさい」


 ほっとけ、職業柄本音と建て前は重要なんだよ。

 王様は小声でエリーザに何かを耳打ちしていた。

 きっと俺の本音を伝えているんだろう。

 エリーザの顔がみるみる驚きに変わりだした。


「白夜様!」

「ゴホン。そろそろ返してくれ。結婚式の真っ最中なんだ」

「あ、そうでした」


 エリーザもコホンと咳ばらいをし、何故かとても切なそうに俺を見ると、一度呼吸を整え目を瞑る。


「エリーザ・フォン・ヴァイゲルッズ・ダビレ・フォルキアの名において、彼の物を遥かなる地へと誘いたまへ」


 俺の周りの魔法陣が光り出し、グルグルと回りだした。

 ギョッとしたが、これがこの魔法の発動を意味しているんだろう。

 俺の身体が光り出した。どうやら転移が始まったらしい。


「白夜様」


 エリーザは目を開け、目元に涙を浮かべるとニッコリと笑って見せた。


「いつか、あの物語の続きをして下さいね」

「ああ、それなんだけど」


 あまり期待させてもいけないので、俺は先にネタバレをしておく。


「あの後は大魔王を倒すだけで、特にオチはない!!」


 次の瞬間、俺の視界は真っ白になり、この世界に来た時と同様に、視界が反転した。

 最後にエリーザの怒鳴り声が聞こえた気がした。

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