名作RPG
俺は疲れた感じで言うと、エリーザは楽しそうに笑った。
あれ? もしかして俺今、気を使わせたのか?
そう意識した瞬間、俺は意識して『疲れた笑い』をする自分の仮面をつけた。
エリーザに気を使わせてしまったと、俺が気づいてはならない。
彼女は本当は辛いのだ。
この戦時下で俺を、というか希少なスキル持ちを失う辛さを隠して笑ってくれているのに、これ以上気を使わせてはならない。
「あれ、そういえば芸人なんて知ってるんだな?」
「はい。こちらの世界にも大道芸人はいますが、白夜様のいう芸人とは主に二人組で人を笑わせる人達ですよね?」
「こっちの世界が見えるって言ってたね?」
ん~っと、エリーザは首を捻る。
「どう説明したらいいのかしら。召喚対象の人柄を知る為にその者の近くから第三者視点で映像を見ている感じなんです。それを持続して見続けるにはかなりの魔力が必要で、白夜様の日常をほんの少し。断続的に知ることができる程度ですね」
「ふーん」
誰かの追体験を見ている感じかなぁ?
「それでその、わたくしとても興味があることがありまして、白夜様の世界の文明がわたくしの世界よりもずっと進んでいるのは理解しています。その中にある電子ゲームという遊戯がとても気になるのです」
「ああ、テレビゲームね」
うんうんと頷いて見せる。
俺はそれ程ゲーマーって訳じゃないけど、子供の頃から一番慣れ親しんだ遊びなので、多少の嗜みはある。
女の子だと全く興味がない人もいるだろうけど、まるで知らない未知の遊びとなれば興味があって然るべきだろう。
「先程も述べた通り、こちら側では断片しか知ることが出来ません。もっと詳しく聞きたいのです!」
「うーん、そうだなー。女の子だとやっぱり自分でデコレーション出来るジャンルが良いんだろうけど、俺はその手のはさっぱりだし・・・」
さて、どうしたものか。
テレビゲームを殆ど知らない人間にどの様に、何を伝えるべきかよくわからないんだけど。
悩んでいるとある名案が浮かんだ。
「そうだ! RPGだ」
「それはどの様な?」
エリーザが食いついてきた。
「自分が物語の主人公になって冒険するゲームさ」
「まあ! つまりは書物の主人公に自分がなれるという事ですか?」
「そんな感じだ。それも本みたいに文章を読み進めるだけじゃない。自分で考えて、装備を整えたり情報を集めて、何処に行くのかは自分次第なんて事が出来るんだ」
「面白そう!!」
おお、凄い食いつきだぞ。
自分の好きな本の主人公に自身がなれる。本という媒体でしか物語に触れられないこの世界ではさぞ新鮮だろう。
「で、エリーザに相談なんだけど。俺の中のイメージにある剣とか魔法とかの世界ってこのRPGってゲームの世界と似てると思うんだよ」
ちょっと俺も興奮してきて、身振り手振りを加えて話し続ける。
「ほんの少しですが、こちらからテレビという機器を覗く限り、ええ、非常に近いと思います」
よし、行けるぞ。
「今から俺が好きなゲームの物語を俺がプレイしたままに思い出せる限り丁寧に話す。それを聞いてこの世界と似てるとか、そこは違うというシーンがあったら教えてくれ」
「な、なんだか凄く楽しそうで興奮してきました!」
「よし、じゃあ聞いてくれ。えー、昔々ある所にお父さんと旅する一人の少年がいましたー」
記憶を呼び起こし、ストーリは勿論。俺のプレイスタイル。その時感じた俺の気持ちを混ぜ込んで出来る限り面白おかしく俺は話して聞かせた」
********
どれだけ話していただろう。
俺だと丸々二日くらいかけてクリアしたゲームを丁寧に話したから結構な時間が経ったような気がする。
そして、話も遂にラストに近づいた時だ。
扉をノックする音が聞こえた。
「姫様、準備が整ったとの事で」
扉が開かれアーダルベルトが顔を出した。
「あ」
やばい時に来た。
てかアーダルベルト、俺はともかくエリーザがいるのに返事を待たずに入って来るな。デリカシーって大事だぞ。
何故やばいのかというとそれは今のエリーザの状態にある。
「ひくぅ、うう、うううう~~」
エリーザは絶賛ガン泣きしていた。
「ひ、姫様! 白夜殿、貴卿何をした!」
目の前で主が泣いていれば同室にいた俺が何か酷いことをしたと思うのは至極当然。だが待て誤解だ。その剣に伸びようとしている手を止めろ。
「違うんだアーダルベルト。俺はただ俺の世界のゲーム、いや、物語を話していただけなんだ!」
「も、物語?」
エリーザを見ればこっそり涙をハンカチで吹きながら、声を震わせる。
「で、では白夜(俺は主人公に自分の名前を付けた。『様』が後ろのついていないのは俺とゲームのキャラを別に捉えているからだ)は、ずっと探し続けていたお母様を目の前で殺されてしまったのですね。なんて可哀そう!」
口にしたらまた感情が高ぶったのか再び号泣し、ハンカチで目元を拭く。というか既にハンカチもべちゃべちゃだ。
エリーザは俺がプレイした名作RPGにドハマりした。
俺は覚えている限り、鮮明に、それこそ武具屋にはこんな装備があり、それぞれに特徴がある。それを踏まえ、俺はこの装備でコーデしたがエリーザならどうする? 村人からの聞き込みは以上だが何処へ向かう? 大体これくらい物語が進むとこの魔法を覚えたなど、出来るだけエリーザ本人が一緒にプレイを楽しめる様工夫した。
その中には、『この物語の世界観はわたくしの世界の価値観と非常によく似ています。ですが、スキルの幅はもっと広いです』といった風にゲームとリアルの修正をしてくれた。
子供の頃は金がなかったからな。名作ってのも加味して何度もプレイしたからかなり細部まで覚えているぞ。
質問を投げかける度にエリーザは『わたくしならこうします』とか『現在の情報では指針が立ちません。この村意外に未攻略の場所はありますか?』など、本当に楽しそうに話し合った。
余程新鮮で楽しかったのだろう。
イベント毎に一喜一憂し、物語の後半であるさっきまで話していた重要イベントのところで涙腺が決壊したのだ。
そんな中、アーダルベルトは入室してきたのである。
「えー、つまり姫様の今の状態は白夜殿が酷い仕打ちをした訳ではないと?」
俺の顔を窺うアーダルベルトに俺は何度もコクコクと首を縦に振る。
「違います! 何故その様な勘違いを? もしこの件で白夜様に何かしようものなら貴方は死罪ですアーダルベルト」
「は? は! し、失礼しました白夜殿!!」
「いやいや全然気にしてませんて!」
感極まった状態だからか、途方もなく過激な発言がエリーザの口から飛び出す。
あるぇ~? この娘初めにあった時より言動が幼くなってない? こっちが素で気を張っていたのかもしれない。
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