楽しい会話

 空気が重い。これって俺のせいだよな?


「・・・さ、流石白夜様。王家の巫女姫にしか伝わらない秘奥を言い当てるとは」

「秘奥なの!? じゃあ俺当てちゃだめじゃないのか!!」

「ええ、秘密を知られてしまっては仕方ありません。白夜様にはここで消えてもらいます」

「ば、馬鹿止めろ」

「何故わたくし達が戦わなくてはならないのか、運命とは残酷なものです」


 そう言うとエリーザは立ち上がって俺を見おろした。

 本当に俺を殺すつもりなのか。

 俺には“破壊”とかいうスキルがあるそうだから、攻撃は効かないはずだ。

 だけど、このスキルを教えてくれたのは目の前のエリーザ自身なんだ。

 スキルの隙をつく方法なんていくらでも知ってそうな気がする。

 俺はゆっくりと腰を上げて身構えた。


「止めろエリーザ。君とは戦いたくない」

「白夜様。っく!」


 エリーザは俺から顔を背けると、口元に手を当てて震えていた。

 ああ、優しいこの娘なら、俺を殺さなければならない今の状況は本当に苦しいのだろう。

 震えは収まらず、顔を赤くし等々座り込んでしまった。


「く、くくく」

「え、エリーザ?」

「あ、あは、あははははは! お、おかしい!」

「あっ、まさか冗談なのか!」


 顔を背けたのも震えてのも、全部笑いを堪える為だったのか!


「ご、ごめんなさい。わたくし余り冗談を言う機会もなくて、ほんの出来心で、く、くく」

「無理に使わなくていいと思うよ! それに俺としては身の危険を感じる様な冗談はブラックジョーク過ぎるから控えようか!」

「『止めろエリーザ。君とは戦いたくない』」

「うああああああああああああああああああ!!!!」


 今度は俺が赤面してベッドの上で身悶えた。

 まさか、これほど恥ずかしい台詞をシリアスに使う機会が訪れようとは。

 恥ずかしさで悶えながらベッドの上をぐるぐる回る。

 ああそうだ、こういう時『く、殺せ!』とかって台詞を使うんだ多分。

 この短期間で俺の黒歴史が更新されてしまった。なんてことだ。


「ふふふ、ごめんなさい。こんなに笑ったの久しぶり。はしたないと思われてしまいますね」

「それはよかったね。俺はずっと埋まっていたい気分だよ。はあ、早く帰りたい・・・」


 蹲って大げさにため息をついた。

 しばし音が消えた。

 あれ? どうしたんだろう?

 悶絶しているのかと思い、顔を上げると、先ほどとは打って変わってしおらしくしているエリーザがいた。


「どう、」


 どうしたのと聞こうとした時、自分の先ほどの言葉を反芻した。


「あっ」


 しまった。俺はさっき『早く帰りたい』と言ったんだ。

 からかわれた人間が言う在り来たりな言葉だ。

 だけど、今俺が最も気安く口に出して言ってはならない言葉。


「エリー」

「ちょっと準備に時間がかかってるみたいですね」


 俺の呼びかけに被せる形でエリーザが早口で口を開く。


「あ、ああ。準備か」

「ふふ、『召喚』は王家の秘奥ですが周知でもあります。秘密なのはその術式ですのでご心配なく。今、王宮魔術師達が下準備をしているんですよ」

「さっき言っていたやつ?」

「はい、魔法陣を描き、魔力を循環させ練り上げるんです。これに少し時間が必要でして」

「魔力を、練る?」

「えーとですね。薄いただある魔力をぐっと濃くしていく感じですね。パンを練るのと同じで」

「同じではないと思うよ! それを言っちゃうと双方の職人さんも困ると思うよ!」


 今、ローブを被ったお爺ちゃんたちが腰を入れてパンを捏ねているイメージが頭をよぎった。


「白夜様。わたくし気が付いてしまいました」

「何かな?」

「白夜様は結構なツッコみ上手でいらっしゃる?」

「そうだな! そして君も中々のボケ役だ!」

「ふふふ。じゃあ二人で芸人でも目指しますか?」

「はあ、君はお姫様じゃないか」


 俺は疲れて感じで、エリーザは楽しそうに笑った。

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