エリーザのスキル

「え?」

「あ」


 やっばぁい! つい油断して普通に聞いてしまった。

 女性の、しかもお姫様に年を訪ねるとか、非常に無礼な行為。

 女性ならセクハラ待ったなし。

 いきなり兵士を呼んで手討ちってことはないと思うけど、気を悪くしただろうか? どう言い繕えばいいだろう。

 ヘルプミー絢羽!


『一度ひどい目に合えばいいんじゃないかな』


 心の中の絢羽さんがそんな手厳しいことを言っている。

 3年の付き合いの経験から何となく解る。本当に言いそうな気がする。


「えーと。17です」

「え!?」

「え?」


 若い。

 いや、よく見れば確かに20代とは違う。こう、肌とか。おっと、これもセクハラか。

 あれ? だけど中世くらいだとそれって結婚適齢期では? 見た感じ旦那さんはいないっぽいけど、・・・


「あっぶねぇえ!!」

「ど、どうしたんですか!?」


 これで結婚まだだよね? とか、聞いてみろ。完全にアウト。今回こそアウト。流石のエリーザも怒るだろう。ギリギリセーフだ俺。


『一度死ねばいいんじゃないかな』


 うお! 俺の中の絢羽が酷いことをおっしゃる。

 見捨てないでくれ俺の中の絢羽!


「・・・あの?」

「いや、なんでもない。えーと何の話だっけ?」

「スキルの話です」

「ああ、そうだった。それで一つ確認したいんだけど。あんな強力なスキルなら、やっぱりあれって回数制限あるよな?」


 あの一つ目巨人の話を全て信じるならば、俺のスキルも無敵ではない。

 それどころか、いつ切れるか分からない非常に危うい能力といえるだろう。

 大丈夫と思って受けた攻撃がモロに直撃する可能性があるのだから。


「確かに、回数制限のあるスキルは存在します。一回使ったら再使用まである程度回復の時間が必要なものなど。けれど、全く制限を受けないスキルもありますから」

「そんなスキルあるんだ?」

「はい。例えばアーダルベルトの『大剣』です」

「『大剣』?」


 ちょっとそれだけじゃ情報が足りない。俺は首を傾げた。


「アーダルベルトはそもそもが剛力の持ち主ではありますが、大剣の使用に限り、重さをほとんど感じないのです」

「え、つまりアーダルベルトに取っては超重量の大剣が木の棒程度の重さだっていうことか?」

「その通りです。大剣という限定した能力ということもありますが、彼のスキルは常時発動型。切れることはありません」

「なるほどなぁ」


 俺は納得して頷いた。

 確かにアーダルベルトは大剣を不自然な程自在に使っていた。

 いくら膂力があったとしても、大剣を振り下ろして即座に切り上げるとか、薙いだ後の返しが異様に速かったのはこれで説明できる。


「ですので、金棒や斧等は一般兵と同じに感じるそうです。因みに大剣であれば木刀でも軽く感じるとか」

「へ~。区切りが難しいんだな」


 限定されたスキルであるが故に使用すれば無双。

 あれだけのモンスターを同時に相手にできる訳だ。


「じゃあ、エリーザもあるの?」

「ありますよ」

「どんな? ああ、治癒かな?」


 あれだって十分凄いスキルだと思う。

 ゲームだと必須の能力ではあるけど、この目で生で見ると奇跡以外の何物でもないしな。

 スキルには血統などが関係するのだろうか?

 お姫様のスキルに興味が湧いた。


「そうです。実は治癒以外にもう一つあるんですけど。ふふ、それは、秘密です」


 そう言って、エリーザは口元に人差し指を立ててウインクした。

 おいホント止めろ。

 そういうかわいい仕草。

 狙ってやってるなら小悪魔だし、無自覚なら大悪魔だ。

 照れ隠しに適当に話を振ってみる。


「ふ、二つ持つこともあるんだ、スキルって」

「ええ、複数持つ稀な人物もいます。かくいう白夜様も二つ持っているじゃありませんか」

「え?」


 “破壊”となんだっけ。


「“身体能力の強化”です」

「ああ、そうだったそうだった。うん」


 アーダルベルトを片手で押しただけでふっとばしたり、ただの石を投げただけで何体ものモンスターを貫いたり、ほんと飛んでもないよな。“破壊”の方が謎だったんで忘れてたけど。


「じゃあ、エリーザのもう一つのスキルってあれだろ、『召喚』とかなんだろ?」

「・・・え?」

「え、当たり?」


 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・


 き、気まずい。

 召喚って魔法じゃなくてスキルに入るのか。

 じゃあ俺、生で見てるじゃないか、分かっちゃうじゃないか。

 可愛らしく“秘密”とか言うなよ。

 それがあっさりと判明してしまったぞ。

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