白夜のスキル
非常に希少なスキルという訳だ。
まあ、俺みたいな戦場を知らない人間を即戦力として投入させられるスキルなんだから、これくらいのハンデがあっても罰は当たるまい。
だけど、やはり努力もしないでチート能力を授かってしまうのはやっぱりいい気分じゃないな。
これを俺自身の力と思わずに与えられた恩恵だと肝に銘じておこう。
「でも、主に防御に対して力を発揮する能力みたいだな。物騒な“破壊”って名前のわりに大人しめな気がするんだけどな」
「或いはそれこそが白夜様が授かった理由なのかもしれません」
「と、いうと?」
俺は頭を傾げた。
俺よりもむしろ攻撃的な性格の人間が持っていた方が使い道がありそうだけど。
「もしこのスキルを攻撃的な人間が授かったらどうなるでしょうか? 辺り構わず破壊を巻き散らすと思いませんか?」
「あー」
確かにそうかも。
殺すつもりはなくとも触っただけで破壊してしまう能力。
温厚な性格でなければ、その内それにも慣れてしまい、何をやってもいいと思うかもしれない。
そう思った時、ぞっとした。
「御解かりですか。その点白夜様は問題ありません。貴方は、その、優しいから」
「お、おう?」
エリーザは俯いて指先をもじもじさせながら、そんなことを言う。
おい止めろ。そんな俺を惑わす様な態度を取らないでくれ、結婚早々家庭に不和が起こりますから。
「う、ごほん。でも、それはあくまでも君の仮説だろう? もし違っていたら君の手がなくなっていたかも知らないんだぞ」
「白夜様を信じていましたから」
「う」
何この信頼感、逆に怖い。
そんな信頼関係が築けるほど俺達時を過ごしてないよね?
この娘、至純過ぎやしないか?
すると、エリーザはぺろりと舌を出した。
おい、だから止めろ。そういう仕草ホント止めろ!
「少し嘘です。だ、だって白夜様はあんなに優しくわたくしを、抱きしめてくれたじゃないですか」
「ほぁあああ!!」
蘇る俺の心に新たに綴られた黒歴史。
そうだ、魔王軍の突入で棚上げにされていたが、俺はお姫様を公衆の面前で抱きしめてしまったのだった。
今思えば、あれは二重の意味で危険だったのだ。
一つは、身分差を考えない不届きな行為に。
もう一つは、一つ間違えば俺の得体のしれないスキルでエリーザの身体が吹き飛んだかもしれないってことだ。
ざわり、と。
身体中に冷や水を浴びせられた感覚が遅い、鳥肌が立った。
俺は自分の両手を見る。
自分の身体だというのに、得体のしれない異物に思えた。
「か、身体はなんともないのかい?」
「はい」
よかった。
ほっと胸をなでおろす。
あ、それじゃあ済まないんだった。
「そ、その、急にあんなことをして申し訳ない。あれで俺の処遇はどうなる、のでしょうか?」
やっぱり死刑か? 恐る恐る問いかける。
エリーザは苦笑しながら「大丈夫です」と俺を安心させてくれた。
「幸い、白夜様は伝説通り、この国を救った救世主となりました。誰もあの件を掘り出そうとはしませんし、処罰を求める声があってもわたくしが絶対にさせませんから」
「そ、そうか。ならよかった。あのさ、妙に偉そうな人がいたじゃないか?」
「ああ、ヨハネスのことですね。彼はこの国の宰相になります」
「大臣みたいなもん?」
「そう、ですね。その様な認識で構いません」
「やっぱり偉い人なのか。あの人は何か言わなかった?」
不安げに訪ねたがエリーザは首を横に振る。
「何か言いたそうではありましたが、救世の英雄となった白夜様を処罰せよとは言えませんよ、大丈夫です」
ふぅ、なんとか安心してよさそうだな。
あれ? そういえば、普通にこの娘とため口をしているのに気が付いた。
アーダルベルトや他の兵士さんには敬語なのに、それより位がずっと上なお姫様にため口ってどうなんだ? ん? そういえば最後の方はアーダルベルトもため口だったような気がしてきたぞ。
今は周りに人がいないからいいかもしれない。
エリーザがそれを望んでいる様なので、無理に丁寧に話す事無く、二人の時くらいは年相応の女の子と話す感覚の態度で問題ないだろう。
「そういえば、エリーザは幾つなんだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます