天蓋の天井

 目を覚ました時、目の前にはご立派な天蓋が視界に入った。

 一瞬あれ? と、思ったけど、すぐに覚醒し、ここが異世界であり、俺は本来であれば、絶対経験しない命がけの戦闘をした後に気を失ったのを思い出した。


「あっ!」


 覚醒し、俺は飛び起きた。


「白夜様!」


 まず女性の声が聞こえ、そちらを向くとそこにはこの国の姫であるエリーザがいた。


「エリーザ姫」

「良かった。目を覚ましましたのね!」


 エリーザは涙ぐんだ。

 その時に手が何かに摑まれていて、力が加わったことに気がつき、見ると、エリーザがしっかりと手を握っていた。


「あっ!」


 ぱっとエリーザは俺の手を放し、顔を赤らめて下を向き、もじもじし始めた。

 何これかわいい。

 おいやめろよ。そんな姿見せられてときめいちゃった時には絢羽に何を言われるか解らないんだから。

 でも、手を握っていてくれたのか。

 俺が気絶している間ずっと。

 やっぱりいい娘だよな

 成り行きだけど、この人を護れただけでも助けた甲斐があったというもんだ。

 うんうんと頷きつつ、混乱が静まり、流されるまま朦朧としていた頭のねじがカチッとはまった。


「俺はどの程度眠っていたんだ!」


 突然俺が大声を出したので驚いた様子のエリーザだったが、質問にはしっかりと答えてくれた。


「5、5ツェルほどです」

「ツェル?」

「あ、えーと、白夜様の国の単位でいうと5時間程です」

「5時間!」


 そんな時間俺は眠っていたのか。

 サッと血の気が引いた。


「君が無事ってことは、モンスターの軍隊は引いたって事でだよね?」

「はい。全ては白夜様のおかげです」

「いや、そんなことも無いでしょう。みんな頑張ってたよ。特にアーダルベルトは俺をずっと護ってくれて、ああ、彼はどうしたの?」


 確か俺を連れて城まで送ってくれたはずだ。

 その後で気を失ってしまったから、その後どうなったんだろう?


「アーダルベルトは兵達に指示を出してくれています。一旦引いたとはいえ、予断を許さない状況ですし、こちらも疲弊しています。隊長としてやらなければならないことが山積していますから」

「・・・そう、か」


 俺が寝ている間も、彼はずっと働き続けているんだろう。

 凄いな、当たり前だけど俺とは育ちが違う。

 ぶっちゃけて言うと俺は少なくとも肉体的には疲れていないはずだ。

 人間ではあり得ない強靭な肉体と触ればなんでも壊れてしまう力があるんだから、疲れる要素が無い。

 尤も、精神的疲労は半端じゃないから気絶は当たり前だけど。

 それなら、と。俺はキリキリと胃痛になりながらも、言う。


「・・・じゃあ、約束は守った。俺を元の世界に帰してくれ」


 最後に俺は真っ先に言うべき言葉を口にした。

 心は非常に痛む。

 敵は撤退しただけで、また攻めて来るだろう。

 だというのに、俺だけ一抜けするんだから気が重くなるのは当然だ。


「今準備をしています」

「え?」

「申し訳ありません。どうしても準備には時間がかかってしまい、もうしばらくお待ち下さい」


 頭を下げたエリーザに俺は面食らった。

 もっと引き留められると思った。

 まだ、撤退しただけで緊張状態だ、とか。

 世界が平和になるまで力を貸してほしい、とか。

 だというのにエリーザの対応は驚く程淡々としていた

 俺が、自意識過剰なのか?

 それ程求められていなかったのだろか?

 俺の戦場の働きがそれ程でもなく、無理に引き留める必要を感じなくなったとか。


「それまでお話しでも如何ですか? 白夜様には是非聞いてほしい話があるんです」

「どんな?」


 エリーザは居住まいを正し、雑談じゃなさそうな雰囲気で俺を見た。


「貴方様のスキルのことです」

「ああ、あれね」


 それならば是非聞いておきたい。

 結果的に何とかなったけど、正体不明の力に命を預けた訳だからせめてそれがどんな力なのかを知っておきたい。


「教えてくれ」


 エリーザはコクリと頷く。

「まずはお詫びを。わたくしは白夜様にしっかりと“スキル”とは何かを教えていませんでした」

「あ、うん。何となく解るよ。要は特殊な能力ってことだろう?」

「その通りです。この世界にはそんな特殊能力を“スキル”といいます。人間であれ、別の種族であれ、この“スキル”持ちは多くいます。尤も皆が備えているわけではないのですが」

「そうなんだ?」

「白夜様のスキルはおそらく“破壊”です」

「うん。そのまんまだね」


 俺に攻撃しようとした敵は悉く敵の方にダメージがいった。

 俺が触れれば相手は壊れるんだろうか。


「あれ! それじゃあ俺って誰にも触れないのか?」

「それはありません。ほら、先程までわたくしが触っていたじゃないですか」

「ああ、そうだ、ね?」


 ギョッとして彼女の手を見た。

 大丈夫、小さな傷一つない。

 だけどだ、それを自分で試すか?

 もしかしたら自分の手が吹き飛ぶかもしれないのに。

 いやいや、流石にそこまで無茶はしないだろう。

 俺のスキルの特性を知っているんだ。


「おそらく、ですが。白夜様は害意のある攻撃を受けると、その全てを吹き飛ばしてしまうのでしょう。スキル持ちは我が国だと十人に一人の割合といわれていますが、『破壊』のスキル持ちはいません。古い文献にその名が記録されているのみです」

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