技(スキル)

 これはこれで膠着状態だ。


「く、待っていて下され白夜殿、こっちを片付けたら直ぐに駆け付けます」

「是非頼みます!」


 アーダルベルトの声が聞こえ、そちらを向いて応えると、あっちはあっちで凄いことになっていた。

 本当に百匹近いモンスターを相手にしており、傷一つ負っていない。

 既に3,40十匹は倒している。

 あの人本当に凄いんだなぁ。

 だけど、これで勝機が見えた。

 アーダルベルトがこっちに駆け付けてくれれば、二体一。

 俺が攻撃を引きつけている内にアーダルベルトが止めを刺せばいい。

 卑怯だけど、甘んじてその汚名を受け入れよう。


「がははは、二人になれば勝てると思ったか? あの男がわしに向かってくる前に、貴様を殺してくれるわ!」

「言ってろ。お前じゃ俺は倒せない」

「はっ! 貴様のスキルがいつまで続くか見物だな。わしはまだまだ続けられるぞ」

「つ、続け? ・・・回数制限があるのかスキルって!」


 SP《スキルポイント》ってやつか?

 そう言えばさっきアーダルベルトがエリーザに治癒のスキルは有限とか言っていたっけ。

 そんな部分までゲーム仕様に合わせる必要はないだろうに、どうなってるんだこの世界は。

 かといって宙を見渡してもステータスバーなんてのは見えないし。これじゃあ、HPもSPも解らない。


「ア、アーダルベルトさん! ステータスを表示させる呪文とかないのか!?」

「ステータス表示? 何ですかそれはぁ!?」


 あっちも大変みたいで敵を薙ぎ払いながら問い返して来る。

 やっぱり知らないか。

 なら、そんな便利な仕様はそもそもないんだろうか?

 俺のスキルがいつ切れるか知る術はないってことだ。

 ここまできたら全部ゲームみたいにしてくれよ、融通の利かない世界だな!

 まずい。まずいぞ。

 早く決着をつけないといつSPが切れるか分からない。

 なんだこの綱渡り的状況は。

 怖いけど、こちらからあいつの懐に飛び込んで倒すしかない。

 一度、エリーザの顔を思い浮かべる。

 必死に俺に懇願した彼女のこと。

 泣きながらしがみついた彼女のこと。

 俺が戦場に出ると聞いて喜んでくれた彼女のこと。

 そして、アーダルベルトや共に戦って死んでいった兵士達を。

 目を開ける。

 一旦、彼らの顔も想いも俺は意識から消した。


 ふぅうっぅ。


 呼吸を整え、腰を落とし、状態を前のめりに構える。

 集中する。

 呼吸も心臓の鼓動も邪魔だ。

 今は目の前のこいつを斬ることだけを考えろ。

 斬る。斬る。斬る。斬る!

 一度は捨てた業だけど、もう一度だけ頼らせてもらうぞ。


 キイィィィィーーーーン。


 一度、高い金属音が心の中で響いた。

 やっぱり直刀は扱い慣れないな。

 だけど、この技ならいけるはずだ。

 

「む、何をするつもりだ」


 俺の雰囲気が変わり、なにか仕掛けると解った一つ目巨人はここが肝と感じたか両手に金棒を生成した。

 覚悟を決めろよ、俺!


「いくぞ!」


 勢いよく駆けだす。

 一つ目巨人は右腕の金棒を振り下ろす。

 斜に構えてこれを躱す。

 今度は左手の金棒で横に薙いできた。

 ここだ!

 状態をさらに低くして横から迫る金棒を空振りさせる。

 金棒のリーチは長く、まだこちらの間合いではない。

 ぐんと状態を前に出し、ぬるりと一瞬で距離を詰めた。


「な、なにぃ!?」


 重心移動による瞬時に間合いを詰める古武術の移動法。

 そこから片腕を高々と振り上げる。


 白夜永命流 初伝 一の剣 天地一刀!


 斬!!


「が、がっがっがっがっががが!!!!」

「感謝するよ。スキルに回数制限があることを教えてくれてな! おかげで覚悟が固まった」

「お、おのれぇええ!!」


 とうとう巨人を一刀両断に斬り裂いた。

 見下ろすとゴロンとこれまで生きていた巨人が転がった。

 安堵感と同時に後味の悪さが胸にまとわりつく。

 口元を押さえて、アーダルベルトの方を見ると。


「ありゃりゃ、あっちの方がよっぽど勇者してるじゃないか」


 なんとアーダルベルトはたった一人で周りのモンスターを殆ど倒してしまっていた。

 あっちも俺に気付いて小走りでやって来る。


「おお、白夜殿。やりましたな!」

「・・・なんとか」


 眩暈を覚え、ぐらっと足元が怪しくなった俺の肩を掴んで、アーダルベルトは俺を立たせた。


「申し訳ないが、もう一仕事、勇者のお役目を」

「え、ああ。勝鬨か」


 こくりと頷くとアーダルベルトが大声で叫んだ。


「勇敢なる兵士達よ。見よ、我らが勇者殿が敵の親玉を仕留めた。この戦、我々の勝利だぁ!!」

『おおおおおおおおおお!!』


 俺は剣を高々と掲げ、全員に聞こえる様に声を張り上げた。


「みんな、俺達の勝利だ!!」

『おおおおおおおおお!! 勇者殿! 白夜殿!』

『ゆ・う・しゃ』

『ゆ・う・しゃ』


 なんかコール始まった。

 指揮官が倒された為に他のモンスターは統率を失ってバラバラに逃げ出した。

 この防衛線は俺達の勝利だ。

 ならさっさと退場したいし、本当に頭がくらくらしてきた。

 日本人じゃまず経験しないことの連続だったから相当無理がきているみたいだ。


「今はなんとか耐えてください。勇者が兵士達の目の前で倒れる訳にはいかんのです」

「・・・じ、じゃあ、さっさと引っ込みましょう」


 勘弁してくれ。

 俺は勇ましくキリリとした顔を(作っているつもり)しながら手を振って馬に乗り、アーダルベルトに手綱を引いてもらって、ゆったりと城へと帰還した。

 帰還した途端に気を失ったのは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る