殺害

 圧倒的な数のアドバンテージを持っているモンスターの軍勢は、いつの間にか、こちらを覆うように軍を展開させていた。

 右を向いて投球フォームを取ったが、前には兵士達がいて狙いをつけられない。

 奴等はそれを理解して回り込んで来たのかもしれない。


「しぎゃやぁあああーー!!」


 モンスターは兵士を倒し、かき分けて俺の方に向かってきた。

 身体の奥から恐怖が込み上げ、全身が震えた。


「ひ!」

「白夜殿。お下がりを!」


 後ろから追いついてきたアーダルベルトは素早く俺を下がらせると、重そうな剛剣を抜いた。


「ぬうん! 消え去れ雑魚共」


 攻めて来たモンスターはゴブリンや翼が片翼しかなかったり、いびつな形をしている奴等ばかりだったが、アーダルベルトはそいつらをまとめて斬り裂いた。

 返す剣で更に数体。

 正に剛剣。

 数が多いだけで十把一絡げの塵芥では、まるで相手にならない。

 相当重い剣だろうに、軽々と使いこなし、振り下ろしてからの切り上げ、横薙ぎからの突きと、技のバリエーションが多い上に、技と技との繋ぎが速い。

 俺が吹っ飛ばした時のイメージが頭に残っているから、それほど強くないのでは? なんて思ったがとんでもない。

 心の底から謝罪を述べよう。

 もし、モンスター達の狙いがアーダルベルトだったなら、百匹いようが相手にならなかっただろう。

 だけど奴等の狙いはアーダルベルトじゃない。俺だ。

 アーダルベルトが数体のモンスターを相手にしている横から幾らかのモンスターが俺に向かってやってくる。


「白夜殿!」

「う、うわあああああ!!」


 迫りくる殺意を持った異形のモンスター達。

 刻一刻と変化する戦況。

 死と隣り合わせの恐怖。

 断崖絶壁のチキンレースなんて目じゃない恐怖だ。

 あれは、アクセルをまだ踏むか、ブレーキにシフトするかの二択しかない。

 だが、戦争は選択肢が無限にあり、間違えた瞬間、即死の可能性もある。

 それでも、俺だったなんの覚悟も持たずにここまで来たわけじゃない。

 エリーザにあんな汚い方法で言質を取った以上、俺も生中な覚悟でこの戦いに臨んだ訳じゃないんだ!

 石を投げるだけじゃなく、戦う覚悟だって出来ている!

 背中に差している剣を引き抜くと、ゴブリンに向かって振り下ろした。


「ぐぎゃあぁあ!!」


 ゴブリンはあっさりと斬り伏せられ倒れると、二度と起き上がらなかった。


「ぐ・・・」


 人間じゃないとはいえ、大きな生物としては生まれて初めて殺した。

 言葉は通じなくても武器を持って襲ってくる知能の高い生物。

 俺の知る限りそんなことが出来るのは霊長類の中でもチンパンジーやゴリラくらいしか知らない。

 それをあっさりと、殺した。

 それが人間を襲うモンスターとはいえ、酷く気分が悪い。

 感傷に浸っている暇もなく、今度は目がない異形のモンスターが襲ってきた。

 どうして人間を識別出来るのかは知らないが、目がない相手ってのもそれはそれで恐ろしい。


「くっそぉ!」


 今度は思い切り突いた。

 ビクリと痙攣して動かなくなった後、そのまま下へと振り下ろす。

 プリンを切っているみたいだ。

 これが俺が異世界で手に入れた怪力か。

 そして、それは一瞬の事だった。

 上から飛び上がってきたゴブリンが俺に向かって棍棒を振り下ろしてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る