豪速球
「な、跳躍した!」
高い。
ゴブリンは子供ほどの身長しかないが、その三倍は飛んでいる。
槍は水平に突き出しているため、突然の上からの攻撃に対処できない。
遂に防波堤が破られ、モンスターが殺到する。
「ううううぅ」
モンスターが直前まで迫る。
人が死んでいく。
俺の目の前で、人間が血を流しながら悲鳴を上げて、簡単に命を落としていく。
開き直ったつもりだったけど、殺すつもりで向かってくる相手を前にして冷静でいられるほど、俺は修羅場をくぐっていない。
いや、訓練した自衛隊でも冷静に対処できる人っているのか? 知らんけど。
「白夜殿。作戦通りに」
「わ、解った」
アーダルベルトは戦意を失いかけた俺を叱咤して、足元に置かれていたバスケットボール程の石を渡した。
今までの俺ならバスケットボールを片手で掴むことなど出来なかっただろうけど、今の俺には易々持つことできた。しかも全く重さを感じない。
「みんな離れろーー!!」
俺の直線状にいる兵士達に大声で叫んだ。
これも作戦通り。素早く兵士達は横へ逸れる。
俺は大岩を思い切り投擲した。
ブン!
放たれた大岩は凄い風切り音と共に、モンスターに直撃した。
それだけではなかった。
一番前のゴブリンをぶち抜いて、そのままドスドスとその後ろのモンスターをのみこみ、何百メートルも後方まで突き刺さった。
「・・・嘘、だろ?」
これには俺も、兵士達も面喰った。
まさか、これ程の威力とは思いもよらなかった。
自分自身の力に驚いて、微かに震えた。
「は、白夜殿。次を」
「あ、ああ」
歴戦の猛者であるアーダルベルトも一瞬硬直ていたが、素早く立ち直り、俺に次を促した。
足元には先ほどの大きさと変わらない石が数十個積まれていた。
前にいる兵士達に気を配りながら、俺は再び石を投げた。
元々、草野球程度しかやったことはないし、ピッチャーでもないからコントロールなんて利かない。
だからコントロール重視で慎重に投げる。
押さえて投げているにも関わらず、石は目にも止まらない速度で飛んでいき、モンスターの軍勢の奥深くまで突き刺さる。
「いける」
「いけるぞ。なんという剛力か!」
多勢に無勢の中にあって、俺の授かった力(石を投げているだけ)は兵士達の希望になっていた。
俺としてもこのまま終わってほしいと切に願っている。
だが、現実はそう甘くはなかった。
前方で石を避けている兵士達と同方向にモンスターも動きを合わせたのだ。
「ぐ」
ここは平野の為、直線上に兵士がいたら、巻きこんでしまうので俺は石を投げられない。
かといって、放物線状に投げてもほとんど意味がない。
そうこうしている内にモンスターは前方の兵士達に押し寄せる。
くそ、どうすれば。
改めて考えると十分に想定できる範囲の動きだった。
時間がなかった為に、策を練っている時間が無かったのが痛い。
兵士が邪魔で投げられないならば、兵士のいない所から投げればいい。
この安全圏から石を投げるだけでは戦況は変えられない。
「アーダルベルト。兵士達にこの石を運ばせてくれ」
「白夜殿!?」
「前に、出る!」
「な!」
俺は左右の手に石を一つずつ持ち、最前線へと走る。
自分自身、考えられない程大胆な行動。
この戦場の空気に当てられて、気分がハイになっているのかもしれない。
なんて速く走れるんだ。
ビュンビュンと風を切り、疾風となって最前線へとひた走る。
ロードレース用の自転車など目じゃないくらいに速い。
身体能力は脚力も凄いみたいだ。
俺の眼前には石の投擲を警戒して兵士達が空けておいてくれているので、なんの気兼ねもなく全力で走る。
「おっりゃー!!」
最前線に飛び出した俺は兵士達に隠れて移動していたモンスターの方向へ石をぶん投げた。
「げっぎゃあああ!!」
投げつけられたモンスターは腹をぶち抜かれ絶命し、その後ろのモンスター数体を巻きこんだ。
「もう一丁!」
左手に持っていた石を持ち換えて、びっくりして足が止まっているモンスター目掛けて投げつけた。
今度は頭部に当たり粉砕。またも後ろを巻きこむ。
よし、そういえば俺には魔法を使えるか聞いてなかったけれど、これは十分に遠距離攻撃の手段になる。
もうレーザービームみたいな貫通力だ。
両手に大きな石が無くなった。
モンスターもそれが解ったのかニタリと笑って俺の方に走り寄る。
「ちょっとそれ借りるよ」
「あ、勇者殿」
近くにいた兵士さんの兜をかっさらい、近づくモンスターに向けて投げつけた。
「ぐぎゃあああ!」
質量がないので、今回はこのモンスター一匹を倒すに留まったが、攻撃はまだ止まらない。
近くに転がっている石ころを拾って、次々に投げた。
ゴルフボールくらいの大きさなのである為破壊力はないが、貫通力はあり、ドスドスとモンスターに突き刺さった。
これでモンスターは俺に警戒したはずだ。
では、次はどう出る?
「右翼からモンスターの奇襲!」
「く、来たか!」
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