司令官

「くぅ!」


 振り下ろしていた剣をそのまま振り上げる。

 両刃の剣は棍棒とぶつかり、棍棒を叩き斬ると思った。


 ダシャーアン!!


 だが、そうはならず、触れた瞬間に棍棒の方が粉砕された。

 俺は驚きつつもそのままゴブリンを斬り捨てる。


「ふぅ、なんで?・・・」


 アンナの剣と同じだ。

 俺の剣に触れた瞬間、棍棒の方がバラバラに砕け散った。

 あの時は素手だったけど、剣で触れても壊れるのか。

 あれ? でも俺がモンスターを斬った時は壊れるった感じじゃなかったけど。

 斬れるならともかく、武器が砕けるっていうのはどういう理屈なんだ?

 だけど、その原理を教えてくれる人はおらず、今度は異形のモンスターが左右から襲ってきた。

 鋭い爪で左右から襲ってくるモンスターを右側は剣で突き刺し、左側は素手で掴み取った。


 グシャアア!!


「ぐぢぢだうだおああえぢ!」

「え!?」


 掴んだ方のモンスターはぐしゃりとその場で吹き飛んだ。

 驚いたのは剣の先端に当たった瞬間にこっちのモンスターが吹き飛ぶ。

 どうして!? 斬ってないぞ。先端に当たっただけで吹き飛ぶなんて!

 吹き飛んだ腕の根元から溢れる紫色の血液。

 靴で踏みたくなかった俺は後ろに逃げた。


「白夜殿、後ろだ!」


 言われて俺は後ろからゴブリンが棍棒を振り下ろしているのに気が付いた。

 咄嗟に放つ後ろ回し蹴り!

 あ、やばい。つい昔の癖で。

 勘で蹴った足が丁度棍棒と握っていた手の辺りに直撃した。

 すると、今度は棍棒は砕け散り、ゴブリンの腕は異形のモンスター同様に身体の半身が吹き飛んだ。


「い、一体?」


 理由は解らない。

 でも俺は武器に触れればその武器を破壊し、直接触ればその身体を中心とした部分が吹き飛ぶ。そんな現象が起こっているみたいだ。

 今の蹴りでも同じ現象が起きたからカウンターも入るんだろう。

 これにはモンスターも度肝を抜かれ、アーダルベルトも瞠目した。

 あれ? もしかしてこれって剣は要らないんじゃ?

 でもそれはやらない。

 殴ったら一撃で死ぬなんてことになったら一生もののトラウマが出来ちゃうし、気持ちも悪い。

 それによく考えれば、俺からの攻撃は普通に斬った感じで殺したと思う。

 壊れた感じで吹き飛ぶ現象は相手の攻撃を防いだ時のみ。

 なら、素手で殴っても確実に破壊してしまうとは限らないか。

 どっち道、馬鹿げたチート能力だ。


「お前らなんて敵じゃない! かかってこい!」


 あえて偉そうにイキがってみる。

 多分だけど、あいつらは人間の言葉が分かる。

 俺に敵わないと理解し、好戦的な俺(の様に演じている)に攻撃する奴はいないらしく、ジリジリと後退した。

 殺されてしまう覚悟はあっちもあるんだろうけど、手も足も出ない相手に挑みかかろうとする命知らずは流石にいないだろう。

 その時、モンスター達を出鱈目に吹き飛ばしながら道を開き、三メートル以上あるモンスターが俺の前に現れた。


「・・・で、でかい」


 そのモンスターもまた異形だった。

 一つ目で牙を生やし、棍棒を握っている。

 棍棒といってもゴブリンの持っていた木製ではなく、こっちは金属製だ。大きさもこの巨人に合わせて2メートルはある。

 巨体のこいつが振り下ろせば、重騎兵だろうと一発でぺちゃんこだろう。


「ぐぅふ。もしやお前が伝説に勇者か?」

「し、喋れるのか!?」


 知能が高いだけじゃなくて、言語を理解する奴もいるんだ。

 俺は驚きと同時に希望を見出した。


「そうだ。俺が伝説の勇者だ!」


 うう、めっちゃ恥ずかしい。

 でもここは我慢だ我慢。


「お前、こいつらは味方じゃないのか? どうして同じモンスターを殺す?」

「単に邪魔だからだ」

「何!?」


 “邪魔だから”


 たったそれだけの理由で?


「そんなことよりも、お前が伝説の勇者で間違いないのなら俺と戦え」

「そんなこと? 仲間を殺してそんなことだと!?」


 巨人は面倒そうに顔をしかめた。

 ぐ、こいつ!


「聞け! 俺が勇者と知るならば速やかに引け。こいつらと同じ目に合いたいか!」


 そう言って、モンスターの死骸に剣を向け、次に一つ目巨人を指した。

 これで引いてくれれば良いんだけど。


「がはは! こんな雑魚とわしを一緒にするとはな。貴様の様なチビに負ける訳があるまい」


「・・・くそ」


 チビって呼ばれたのは生まれて初めてだ。

 まあ、3メートルはある巨人には人間なんてみんなチビだろうけど、地味にショックだぞ。

 もっと優しく諭すように説得すればよかったか? いや、多分こいつには逆効果だな。

 他にこいつに引いてもらう方法はないか? こいつが親玉だろうか? こいつが引けば軍全体が引くんじゃないのか?

 考えろ。説得は出来なくても引かせる方法はあるはずだ。

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