第一幕 蓮華姫婚姻譚/こんがり童子と龍の姫君 その9
「なんだ?」
蓮華は天歌の黄金色の瞳を見つめる。媚びる―――とは、どうやればよいのか。
プライドの高い少女は今までそんな行為をしたことがない。男を喜ばせるにはどういう態度を取ればいいのか考えるなんて、お嬢さま育ちの蓮華には無縁なことだ。
手とか、握ればいいのかな?……少女の指が恐る恐るといったように少年の手に触れる。
男に触ったこともなかった蓮華はたったそれだけのことでも顔を赤らめてしまう。恥ずかしいし、少し怖かった。だが、お願いしなければならない。
「て、天歌殿。お金なんて、私は持っていないんだ。私にあるのは……あ、あるのは、こ、この身体だけだ……だ、だから、わ、わたしを天歌殿に……あ、あげる!」
少女の発言を聞いてお里と大牙が凍りつく。この子、なんてこと言い出した?
「ほう。どこかのお姫さまのテメーが、山賊ごときの『女』になるってか?」
「そ、そうだ!この蓮華が、天歌殿の、お、『女』になってやると言っておるのだっ!」
なんてはしたない言葉を口走っているのだろう。蓮華は顔を赤くしたまま、それでも言葉をつづける。
「お、男の人は、私みたいな娘に劣情を抱くのだろう?私みたいな可憐で汚れのない乙女を、欲望のままにむさぼるのが楽しいんだろうが!知っているんだぞ、豚ガエルや天歌殿が斬り捨てたサムライたちが、私のことをいやらしい目で見ていたこと……私は、絶対に、どう考えても美少女だしな!」
蓮華は迷うことなく断言した。龍の血を引く証である水色をした長い髪、雪のような白い肌。
紅玉のような瞳が輝く顔は人形のように整っていて……すらりと伸びた手足と、わずかにはふくらんだ胸は男心をくすぐる魅力を宿してもいた。
たしかに美少女である。
「そ、そんな美少女の私を、す、好きにしていいと言っておるのだ!ま、まだ子供と言われればそうなのだが、そのうち時が経てば私は間違いなく絶世の美女になる!私の姉さまがそうなのだから、私もそうなる!天歌殿、私の願いを聞いてくれれば、おぬしは地上で最もうつくしい女を娶ることが出来るんだ!」
「ハハハハハッ!……『地上一』とは自信家じゃねえか!」
「う、うるさい。たしかな美少女だろうが、私は……」
「たしかにそうだな。だが、地上一を謳うほとプライド高いヤツが男なんかに従うか?」
「おぬしはフツーの男じゃないだろ。力ずくで地上一の女のプライドをへし折ってみればいい。それに、私の従順さを疑うな!……私は家族のためなら、死ぬよりつらい豚ガエルの妻になることさえ受け入れるような女だぞ」
「……ああ。そうだったな。気に入ったぜ。テメーのことをオレさまの女にしてやる」
「う、うむ。い、今このときから蓮華は天歌殿の、お、お、おんな……です」
初恋もしたことがない少女は、頭のなかが沸騰しそうな気持ちになっていた。自分がとんでもない約束をしたことだけは分かる。
身体を売ったのだ。自分はこの天歌という少年の所有物になってしまった。
これからは彼が望んだときに身を差し出すことになるのだろう。
具体的にそれがどういうことなのかはサッパリだが、とてもいやらしいことをされるであることは明白だ。
それを考えると恥ずかしさで死にそうになってしまう。だ、だが、今はそれどころじゃない。
「契約は成立したな!天歌殿、リョウゼンの軍勢と戦ってくれ!」
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