第一幕 蓮華姫婚姻譚/こんがり童子と龍の姫君 その7

「……そうか、お前もこんがり童子たちと一緒で『捨て子』なのか」


「ああ、たぶんな。親兄弟なんて、見たことねえし」


 ―――この男は愛情を知らなさすぎるのかもしれない。少女はそんなことを考えて、すぐに首を振った。いや、そうじゃないよ。愛情を知らないわけじゃないはずだ。とんでもない行動じゃあるけど、こんがり童子の『願い』を聞いて私を助け出そうとしてくれているのは事実だから。愛情や哀れみを知らぬケモノならば、そんなことをしないだろう。


「……(お前は、ちょっと壊れちゃっているけど、極悪人でもないんだな)」


「なに笑ってやがる?……まあ、いい。待ってろ、リョウゼンをぶっ殺してくるわ」


「ちょ、ちょっと!……強いからって、いくらなんでも一人じゃムリだろ」


「いや、あと二人ほど腕の立つ仲間がいるんだが―――」


 天歌はリョウゼンの屋敷へと続く道へと視線をやった。蓮華も彼に習ってその方角を凝視してみる。


 薄闇の彼方から、荷車を引いた馬がこちらにやって来ているようだ。


「……あれが、『天狗』殿のお仲間か?」


「天狗じゃなくて、天歌だっつーの」


「そうか。で、彼らが天歌殿のお仲間たちか?……ずいぶんとニヤニヤしておられるが」


 ニヤニヤしている山賊どもが、少年と少女の前にたどりつく。


「―――やあ!天歌、今日もたくさん斬り捨てちゃって、健康的だねえ!」


「―――うはは。死体の山やなー!天ちゃーん、うちらのほうも大漁やったでえ!」


「……大漁?お前ら、リョウゼンをもうやっちまったのかよ?」


「いやいや。僕みたいな繊細な人間はそういう乱暴なことしないよぉ」


「そやでー?うちらは天ちゃんみたいに武闘派とちゃうもん。クールな怪盗やもーん」


「結局、どういうことだ?」


「それがさー、ほとんどリョウゼンの屋敷にヒトがいないんだよ。だから、天歌がお姫さまを救出してるうちに―――ああ、君がうちのこんがり童子に優しくしてくれたお姫さまだね?僕は大牙。最近、『赤鬼塚の大牙』って呼ばれている破戒僧さ」


「そ、そうか。よろしく、大牙殿……私は蓮華だ」


「蓮華ちゃんか。ええ名前やなあ。うちはお里っちゅうんや。これ秘密なんやけど、うちは西の大妖怪『ぼたんだぬき』の一人娘やねんで?まあ、よろしゅうな!」


「よ、よろしく、お里殿」


 ……酒臭い破戒僧に『賞金首』のアヤカシが仲間か。


 なんだろう、なんか妙に納得できちゃうな。蓮華はそんなことを考えながら、うんうんと二、三度うなずいていた。


「……で。テメーら、リョウゼンたちがいないってのはどういうことだ?」


「そのままの意味。ゼロじゃないけど、ほぼ皆無……だから、もー盗みたい放題でした!さすが領民を家畜扱いしている暴君だけあって、いい酒揃えていたよー♪」


 大牙は戦利品である酒瓶を掲げて天歌に自慢したあとで、手元に取り直すとその高級酒に愛おしそうにほおずりする。


「坊主の態度じゃねえな」


「いいんだよう、破戒僧だもん♪」


「まあまあ、天ちゃん。こんだけ盗賊稼業が上手く行くと、嬉しくもなってまうわー♪ほれほれ、見てみい?たくさん、たーくさんあるでえ、金目のモンがぁ♪」


 たしかに、大漁らしい。馬が引く荷台には他にも金銀財宝がたくさん積まれていた。天歌はそれを物色しながら文句をつける。


「なんだよ、武器がねえじゃないか?……連中、陰陽師の家系なんだろ?魔剣だとか、霊剣だとか宝剣だとか……そういう宝を盗ってこいよ!」

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