第一幕 蓮華姫婚姻譚/こんがり童子と龍の姫君 その6

「……自由?……ふ、ふふ……あの子には感謝してもしきれぬが、私は自由にはなれん」


「どうしてだ?」


「……政略結婚というやつだからだ。私がここから逃げれば、家族や里のみんなに迷惑がかかってしまう……豚ガエルに―――リョウゼンのヤツに殺されてしまうかもしれない。そんなの、ダメだよ……」


「ふーん。それなら、リョウゼンってヤツもこの機会にぶっ殺しておくか」


「え?ちょ、ちょっと待て、そんなの、さすがにムチャクチャだろ?」


「……じゃあ、テメーは豚ガエルの嫁になるなんて笑えねえ未来を受け入れるのか?」


「そ、それは……」


「受け入れたくねえ運命とやらに従う義理なんざねえんだよ。オレはこないだの戦で悟ったぜ?……人間も世の中も下らねえもんだってな」


 ……私と同じようなことを考えてるな。蓮華はふとそう思った。少女の心に芽吹いた共感に気がつくこともなく、山賊は己の主張を展開する。


「ショーグンもミカドもラカンも、自分の欲のためにオレたちを巻き込んだ。自分が『王』になって好きなように世の中を支配したいってだけでな。んなもんに付き合わされて、大勢が殺し合いをさせられて、どいつもこいつも虫けらみてえに死んじまったのさ―――」


 少年は悲しそうな瞳で少女のことを見つめてくる。少女にはその理由が分からない。


 ただ、その黄金色の瞳は自分のことを見ているわけではないのかもしれいないと直感的に彼女は悟った。


 私の姿に『誰か』を重ねているのだろうか?……少女がそんなことを考えているうちに少年の瞳は強さを取り戻す。悲しみから、怒りという感情へと移ろっていた。


「―――そう。虫けらみてえだったぜ。焼け落ちた寺で見つけたガキどもは……まっ黒焦げに焼けちまったあいつらは、何かに怯えているみたいに手足を丸めて……虫けらみたいに転がっていやがった……ふざけんじゃねえよ」


「……お前は、その子たちを守りたかったんだな……そうか、あのこんがり童子は……」


「……あいつらは死んだ今でも苦しんでいやがる。未来永劫、身を焼かれる苦しみにつきまとわれるそうだ。下らねえ……それが、あいつらの運命だって言うのかよ?あんなものが運命だって言うのなら……オレは、もう、そんな下らねえものに囚われたりしねえ!」


 天歌は笑う。


 その笑顔は躍動的だ。まるで束縛から解き放たれた野獣が、原野に帰還したことの喜びを天に向かって吼えているような……。


 少女は少年の笑顔の奥底に『獣』の姿を見つけていた。


「好きなように生きてやるんだ。オレは誰も支配しないし、誰からも支配されねえ!ムカつくヤツはぶっ殺して、欲しいものをこの手で奪う!そういう人間らしさを極めるんだ!」


「……あはは。恐ろしいヤツだな、お前は……そういう生き方を『人間らしい』と見定めるなんて。私には、ちょっと出来そうにない。お前の理屈は、私では理解できん」


「そうかもな。お前がオレを理解できないのと似たようなもんだろう。オレだって、お前が自分よりも大切にしようとしている『家族』ってものを理解できねえしな」

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