第一幕 蓮華姫婚姻譚/こんがり童子と龍の姫君 その4
牛車は止まることなく進む。
泣き疲れた蓮華は頭をぐったりと垂れたまま、戦について考える。なんで、ヒトはこんな残酷なことを出来るのだろう?
……敵と味方に分かれてしまうだけで、なんであそこまで残酷になれるのだろう?
殺したり、呪ったり、村ごと焼いたり、子供を殺して遊んだり……世にこれほどの不幸を振りまいてまで、尊い身分のクズどもは、どうして己の野心を満たそうとするのだろう?
―――西の都を滅ぼせば、東の私たちは西の都のこんがり童子を痛めつけるのだろうか?
……否定したいが、たぶん、さっきの奴らみたいに笑いながら童子を嬲る連中はたくさんいるのだろう。
だって、どっちも同じ人間なのだから。昔も未来も、西も東も南も北も関係なく、いつだって、戦になればこんなものなのだろう。
「……『シナズヒメ』が世界を呪ったのも、分からなくはないな……この世界も人間も、みんなサイテーだ……私も、いつかきっと呪いに取りつかれる。世界のことも人間のことも、ゆるせなくなる気がしてるもん……」
夕刻も深まり、小雨はいつのまにか止む……牛車はとうとう豚ガエルの町にたどり着いたようだ。
新たな代官に怯えて、静まりかえる町のなかを嫁入り牛車は進んでいく。だが、とある川にかけられた小さな橋の手前で牛車は止まる。男の怒鳴り声が聞こえた。
「貴様、何者だああ!」
蓮華は何事かと窓から外を見た。少女の目の前を何かが飛んでいく。
あまり大きくはない物体……さきほと蓮華を脅すような言葉を吐いた男の『頭部』だった。
「ひぃっ!」
少女は思わず窓から飛び退いた。な、なにが起きた?なんで豚ガエルの本拠地で、ヤツの部下が殺される!?
……蓮華の心には恐怖と共に、興味も湧いていた。自分が置かれている状況を確かめたいと少女は願った。彼女は窓に額を押しつけて外の様子をうかがう。
―――それはひとりの少年だった。彼は縄でひとくくりにした無数の太刀を左肩に担いだまま、右手にもつ刀をビュンと振る。
少年に斬りかかろうとしていた男が腕を斬られ、その場にうずくまった。
少年はつまらなさそうな表情を浮かべ、その男の顔面を蹴り上げた。バキリという太い木が折れるときのような音が響いて、男の首があらぬ方向へと曲がる。蹴り殺したのだ。
「……あーあ……雑魚ばっかりかよ。オレさま、ガッカリー……」
少年は肩に背負っていた刀たちを放り捨てる。
それだけではない、右手に握っていた刀までポイッと無造作に投げ捨てていた。『素手』になった少年は、弱者を挑発する。
「なあ、オッサンども。テメーら西からわざわざ出向いてきたバカ代官の護衛だろ?……ちょっとは、オレのことを楽しませてくれねーか?」
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