序章 その9


「オラオラオラアアアアアアアッッ!!」


 天歌は素晴らしい対ゾンビ兵器を発見していた。手斧である。


 左右の手に握りしめたこの小さくも分厚い金属の刃を、太鼓のバチのように振ることでゾンビどもに致命傷を与えることが可能だ。刃こぼれもしないしな!


「……だが、さすがに数が多いか」


 ときおり俊敏なゾンビもいるが、大半のゾンビは鈍足だ。一体ずつ倒すのはそれほど難しくはない。しかし、あとどれだけいやがるんだ?


 ……あの海岸にいた奴ら全部だとすると、いくらなんでも厳しいかもな。お経でも読めば成仏してくれねえかな?……でも、正式なお経なんて習ったこともないんだよな―――。


「お、おい!誰かがこっちに来るぞお!」


 寺の屋根に登った見張り役の男がそう叫んだ。


「どうする?お、女の子みたいだが、入れてやろうか?」


「……つってもよう、正門開けちまえばバケモンどもがなだれ込んでくるぜ?」


「だが、女だぞ、女ぁ……っ。しばらく抱いてねえし……ッ」


「バカ!そんなこと言っている場合か!」


「―――門を開けてやれ。ゾンビどもは、オレがなぎ払ってやるよ」


 天歌がそう言えば男たちに異存はなかった。この数十分の戦闘で天歌がどれだけの腕前なのかは皆が思い知らされていた。


 戦場では強者の言うことは絶対だ。天歌はサムライたちから刀と脇差しを借りて二刀流になる。天歌は見張りの男に叫ぶ。


「門を開けるタイミング、アンタが言ってくれ!」


「おう!任せときな!さあ、お嬢ちゃぁあん!こっちだぞおお!早う、来ぉおおい!」


「お、おおきにー!たすかりまっせ!」


「うう、嬢ちゃんゾンビを連れてきてるなあ。そろそろか……3、2、1……いまだ!」


 見張りの男の言葉と同時に寺の扉は開かれる。天歌はその瞬間、矢のような勢いで飛び出していた。


 すれ違いざまに若い女が見えた。銀色の髪をした乳の大きい女だ。そして、その背後にうじゃうじゃゾンビがいやがる。


 何匹いるのかも分からないが―――まあいい、全員まとめてぶっ殺してやればいいじゃねえか!


 殺戮の剣舞が始まる。天歌は嗜虐的な笑みを浮かべながら、ゾンビの群れに突撃していく。右の刀で切り捨てて、左の脇差しで突き殺す。


 脇差しを身を回転させながら引き抜き、右の刀による力任せの横なぎ払いを続けざまに放った。重厚な鎧をまとったゾンビを見つける。


 斬撃では切れそうにない……だから、脇差しをそいつの首元に突き立てて仕留める。脇差しは深く食い込み、骨に挟まれたようだ。


 捨てるしかねえな。天歌はそう判断し、脇差しから手を離す。


 刀一つになった天歌であったが、それでも斬撃を次々に連続させて、ゾンビを切り捨てまくった。


 七匹目を切りつけたころ、刃こぼれしていた刀がゾンビの骨に引っかかり、そのままバキッと折れた。折れても問題ない。


 折れて短くなっても金属の塊、切りつければ殺傷能力はまだまだ現役そのものである。返す刀でそいつの頭部を殴打して仕留めた。


「……ッ!まだまだあ!」


 刀を折られた直後、正面から飛びかかってきたゾンビを前蹴りで打撃し、右から飛びかかってきていたゾンビのあごを折れた刀で下から貫く。


 いよいよ自由に振り回す武器のなくなった天歌は、そのゾンビが腰に差したままにしていた脇差しを抜き取り、起き上がってきた正面のゾンビの頭を切り裂いてみせた。


 さすがに体力の限界だ。ムチャな運動を連続させた体に限界が訪れようとしている。


 少年はダメ押しと言わんばかりに、脇差しを迫り来るゾンビの群れに投げつけた後、きびすを返して寺へとダッシュで帰還する。彼の帰還と同時に門はふたたび閉じられた。


「む、むちゃくちゃなヤツやなあ!いったい、一人で何十匹殺す気や……」


 両膝に手を置いたままハアハアと荒い息で呼吸している天歌に、銀髪の女は声をかける。


「でも、おかげで助かったでー。ありがとなあ、ボーヤ♪」

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