序章 その10

「……うるせえ。ガキあつかいしてんじゃねえよ。オレはもう15だ」


「うふふ。そういうセリフ言うてる内は、まだまだガキやねんで?」


「しかし姐さん、アンタよくバケモノどもの群れから一人で逃げてこられたな?」


 一人の男が女に聞いた。女は、くすくす、と笑いながら、運が良かっただけでーす、と答えていたが天歌にはこの女が生き残った理由が他にもあることに気がついていた。


「……テメー、タヌキだろ?」


「へ?ち、ちゃうわ、いきなり失礼なガキやな!」


「ばーか。しっぽが出てるんだよ」


「え!そ、そんなバカなっ!?」


 銀髪の女が着物越しに尻のあたりを抑える。天歌は鼻で笑った。


「フン。出てねえよ。テメー、術じゃなくて頭のほうを鍛えないとな」


「う、うう!ば、ばれてもうた!人間の女のフリして、男どもに守ってもらおうと思っていたのにッ!?……ちょ、お、お前、なに刀拾い上げとんのや!?」


 天歌は地面に転がっていた刀を拾い上げ、その切っ先をタヌキに向ける。


「このアヤカシどもを引き連れて来やがったのはタヌキか?それともキツネか?」


「お、お前、まさかこのバケモンどもとタヌキが仲間やとでも言いたいんか?」


「ああ。タヌキやキツネがやってくるまでは、こんなアヤカシはいなかったんだぜ?」


「ちょい待て!そんなわけあるか!そもそも、タヌキにこないな力あったら、西の都で負け戦なんてやらんわい!……それに、舶来キツネにだって、こういうことはムリやろ」


「じゃあ、こいつらはどこから来たんだよ?」


「うちが知るかい。ただ……ショーグンはんの都のほうから悪い気が流れてきよる。もしかしたら、あんまし縁起ないことが続いたもんで、地獄の扉が開いてしもうたのかもな」


「地獄の扉ァ?……テキトーな名前だな。まあ、いいぜ。どのみち敵か味方かも分からねえヤツを近くに置いておく趣味はねえんだ」


「ちょ!み、味方、味方ぁ!ショーグン側について同盟組んだやろっ!?」


「戦は終わった。今さら同盟もクソもねえだろ?」


「ちょ、ちょっと待ってくれえええ!」


「な、なんやお前?」


 天歌とタヌキのあいだに一人の男が割って入る。男はタヌキの足にしがみつきながら、涙をドバドバ流した顔で天歌に懇願してきた。


「たのむぅ!こんなエロい体をした女を殺さないでくれええ!」


「オッサン、いいこと言うたで!」


「正体タヌキだろ?エロいもナニもねえだろうが」


「人間だろうがなかろうが、エロいもんはエロいんじゃああいッ!!……せ、せめて、ワシに一回でいいから、エロいことをさせてくれえ!殺すなら、そのあとで殺してくれええ!!」


「こ、このゲスがあああ!」


 タヌキはオッサンをガンガン踏みつけていく。天歌はバカらしくなって刀を下げる。


「―――まあいい。しばらくは殺さないでおいてやるよ」


「お、おおきに」


「ちょっとでも怪しいそぶりをしたら即・鍋にしてやるからな」


「よ、よだれ垂らしながら恐ろしいこと言うなや!……こいつらホンマ最悪の野武士集団やで。エロいことしたあげくに鍋にして食ってまうとか……そないなことばっかりやっとるから、ミカドとキツネに負けんのや……」


「う、うるせーよ」


 この場にいる男たちはそう言い返すのがやっとであった。彼らはみんな負け犬だから。


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