序章 その4


「―――おのれぇ、舶来キツネめぇ……」


 燃える都を見下ろせる小高い丘の上で、巨大なタヌキが息絶えようとしていた。


 陰陽師の使う『鬼兵士』、そしてサムライどもに混じっていたキツネの剣士にやられた傷は、『ぼたんだぬき』とあだ名された彼の太った巨体を貫き、内臓にも達していた。


「ああ、無念やでえ……年に二度も戦で負けるなんて……ワシ、衰えてたんやなあ……」


 もはや『最強のアヤカシ』と呼ばれたタヌキも年貢の納めどきである―――救いは娘の『お里』が戦場から無事に戻ってきたことぐらいか。


「父ちゃん。こんなところで死んだらあかんで。タヌキの未来はどうなるんや?舶来キツネに縄張り盗られて、ショーグンはんと組んだ戦でも負けて……このうえ、父ちゃんまでおらんようなったら、うちらどうしたらええんや?」


 雪のように白い毛皮をしたタヌキの『お里』が鼻をならしながら父親に近寄る。


 『ぼたんだぬき』は苦笑するしかない。


「うへへ。あんまし、いい考えが浮かばんのう……ショーグンはんらも一族そろって腹切りするつもりらしいし……ワシら、困ったことに後ろ盾がおらんくなってまう」


「だからこそや。だからこそ、父ちゃんまで失うわけにはいかへんのや」


「……とはいえ、戦争するにもタヌキがもう残っておまへん……あちこちほうぼうに散っていった連中も、そら、いくらか生きとるんやろうけど……キツネつぶすには、どうにもこうにもタヌキが足りんのや」


「……ほな。うちら、どうしたらええん?」


「……50年待つんや」


「ご、ごじゅうねん?」


「……そんぐらい、耐えるつもりでおるんや……術ぅ磨き、子孫を増やせ。みじめにキツネどもから逃げてもええ。隠れてもええ……せやから……死なずに、耐えて忍ぶんやでぇ」


「ああ……父ちゃん…………死んでもうた」

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