主はわれらの羊飼い 私は乏しい事が無い

水の淀みが 映える大河の 寄合水せせらぎ

薄墨は髪 櫛に移って 水の中で文字となる

爪櫛で綴る 言葉の群れ

絹は黒真珠 瞬き集めた 夜空の書

夕顔は星 花開かば空に 射干玉ぬばたまの月

宇宙そらは萌葱 光の五月雨を 星は受ける

我が王は 燃え伝えられ かいなを広げ

胸に抱きしめ 慈しむ 紺碧の草原を

天翔る くるぶしに 寄り添い立ち

招きに応じて 胸に飛びつく

肩へ乗せられ 希望の丘を示すは その容貌かんばせ

主は私だけの御者 私は恐れない 迷う事を

額に印を戴き しかし刻まれぬ 恵まれた羊

しかし贄でなく 我が身は比翼を持つ

日毎啄み 羽根を膨らませ

平和の祈りを 歌う鳩

私の他に 鳩はいない

「天使のような ものになるのです」

神が仰せられた通りになって

嗚呼私の他に 鳩はいない

よもや忘れられてはいなかろう

罪人こそ 最もめぐみを受け

その歓びに 生きる人

しかし神は 見ておられる その心に

疚しいことが 何もなく

償いを持って 友と語っていた その人へ

打ち明けられなかった 悲しみを

その悲しみを拾い上げる神

贖いを繰り返そうとも 報いて下さる

苦しみ苛まれる時 我が友は遠く離れ

決して振り返らない この声枯れるとも

鞭は長く 棒の端は 果てが無い

鞭打つ人が誰か 私は知り得ず

うそつきな万物の王へ

呪いを吐いて 彷徨い歩く 魔女を探そうと

その苦しみも 今は無い

大地を包む鞭の先には 騎手がいる

地球がいあを貫く杖の先には 牧童がいて

私が顔を上げ 気付くのを待っていようと

其の忍耐は 阿僧祗あそうぎよりも長い

愛のない者には 三阿僧祗劫さんあそうぎこうより長く

愛そのものには 刹那より短く在りて

今は昔 刹那の瞬きに怯えた人も

尽きることなき葡萄酒わいんを呑み

増え続くる パンを千切り 与え合う

地のもの 水のもの 空のもの

私の連れてきた 純朴なる神のしもべ

何時と言わずも 思い出して 分かち合う

パンは分ける程に増え その籠十二を超え

籠そのものすら 足りなくなるのであろう

嘗て他人ひとの罪を数える為にあった 私の指

己が罪の多さで隠れ そして赦しに覆われる

赦しを束ねた掌で 私を赦した 掌で

知識の実りんごで淹れた紅茶を注ぐと

その唇は 濡れて静か綻び

私の飲みやすいよう 分けて下さる

この時間ときを羨む者は 来て共に席に着け

「我が君は 私を愛し 慈しみ 救った」と

そう言えるだけの 愛は皆 持っており

そう言えるだけの 赦しを皆 知っている

宇宙くうの始まりから宇宙くうの終わりまで

全ての命が語らうこの場に

救いも愛も 平等にある

私が救われる ただ一つのため

我が神は 三度纏う それは肉の衣

彼にとっては痛み 苦しみ 嘆き

そして誇りと 栄華でもある

私が一番好きな姿で 求めた姿 愛した姿で

我が神は慰め 抱きしめる 狂おしいほど

膝の上で紅茶を啄み

零れ落ちた 菓子けーき白粉くりーむが 私の嘴に乗る

主は我が身を 抱き上げて

右頬に接吻くちづけてから それを舐め取ると

接吻くちづけは心豊かにならなければ」と 笑い

私を卓子てーぶるに乗せる

それだけが 嗚呼 それだけで

私は無量大数の 人々の憎悪を

心擦りきれる程の 五劫の時

受け続けた 慰めになる

もう一度触れて 触れられて

人の営みで 子が母にも 父にするよう

羊が皆 牧者に かぶり寄せるように

私の呪詛は 最早消えて何処にもなく

その故人々は手放すのだ 国と力と栄え

限りなく 其は我が神の 我らの神のもの


我が神 我が神

何故私を捨て給う

そう祈る者は何処にもいない 彼らは来て

そして私は歌い舞おう 共に彼らと歌おう


主は私の羊飼い

私は乏しいことが無く

緑の牧場 憩いの泉に連れてきて

導いて下さったのだ 救いの道へと


その羊飼いは最早嘆かない

嘆くもの 悩めるものは もう居らず

約束された大地への 帰依を待って

与えられた歓びの時を生きようと

人々は死に怯えない

死は彼らに負けて 葉を食いしばる

神への愛が 己への恐怖に勝るであろうという 傲慢へ

死は死の意味を無くし 楽園へ降り立つだろう


その羊飼いは 死を飼う羊飼い

死といのちは 最早憎み合わず

死といのちの 二つの杯を携え

我らは神なる王に乾杯せよ

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