第4話 ポスト・コロナ『アメリカン』1

5月21日トランプは非常事態宣言を解除し、経済活の再開に踏み切った。5月28日時点、感染者数169万人、死者数10万396人、トランプが予想した10万になった。世界最悪の数字である。失業者は3900万人。トランプは中国の対応が遅かったからだと中国非難を高め、WHOも中国よりだと拠出金を一時差し止め、ついに関係を断った。どうみても負け犬の遠吠えに私には聞こえた。さどかし支持率は落ちているだろうと調べて、驚いた。


アメリカの世論調査機関の中では最古の伝統を有するギャラップ社の5月1日から13日の間に実施された調査(5月17日発表)での「あなたはトランプ大統領の統治ぶりを支持しますか」という質問に「イエス」と答えた人が全体の49%、「ノー」という回答が48%という結果であった。トランプとしては過去最高の支持率である。

コロナ惨禍の中でも「消毒液を注射したらいい」とか、ハチャメチャ発言は相変わらずであったのに、である。


11月の大統領選挙、民主党の候補に決まっているジョー・バイデン、コロナ禍の中で選挙活動は満足に行えていない。トランプはコロナ戦時下の大統領として、失言をもろともせず毎日報道陣の前に顔を出す。大統領選の焦点が中国政策となって来たとアメリカ各紙は報じるようになってきた。バイデンは「トランプの方が中国に弱腰だ」と、中国強硬路線を強調した。トランプの土俵に乗ってしまった。バイデンが責めるのは中国ではなく、トランプのコロナ対策の失敗と責任である。これではトランプの再選となってしまう。

トランプがトランプである限りトランプは大丈夫ということになる。この存在感は何を意味するのだろう、彼の存在が今のアメリカそのもののように思えて来たのである。今まで「トランプが大統領?アメリカも落ちたもの」と顔をしかめるだけだったが、私は興味を倍にした。ポスト・コロナを知るためにも・・。


***

(1)アメリカのコロナ対応


トランプは1月28日、一早く武漢にチャーター機を飛ばした。アメリカが動けば、世界が動く。世界各国はこれに続いた。2月2日トランプはどこよりも早く大統領令により、アメリカ国籍以外の者の中国全土からの入国を禁止した。中国へ遠慮のいらないアメリカは水際作戦で一早い対応を取り、トランプは、「アメリカは大丈夫」と大見得を切った。


2月3日横浜港に着岸したクルーズ船の対応には、ニューヨーク・タイムズ紙は専門家の見方として、「公衆の衛生に関わる危機について、『こうしてはいけない』と教科書に載る見本だ」と伝えた。この時、日本のメディアはアメリカにはCDC(アメリカ疾病予防管理センター)があって、日本にもこのような組織が必要だと報じた。脅威となる疾病には、国内外を問わず駆けつけ、調査・対策を講じる上で主導的な役割を果たしている。軍民が一体となり、組織力、予算規模においても世界でも群を抜く存在だと報じられていた。


そのアメリカが試される時が来た。

その名も姉妹船『グランド・プリンセス』であった。ダイアモンド・プリンセスとほぼ同じ乗船者数であった。3月9日、カリフォルニア州のオークランド港に入港した。コロナ対策指揮官としてトランプはペンス副大統領を直々に指名した。ペンスは、「アメリカは十分な検査キッドを持っている、検査は大丈夫」と胸を張った。日本から学習していたのか、乗客は下船させて米軍基地に、乗組員は船にと別けた。まずは船上の武漢にはならなかった。ただ、陸上ではそれが許されなかった。


アメリカより前に、イタリアのロンバルディア州で感染爆発が起き、封鎖状態となった。あれよ、あれよと云う間に感染は全国に広がった。報じられる映像はまるで武漢のようであった。それはEU欧州全域への感染を予感させた。私はこの時点で、アメリカまで広がれば、リーマンショックどころではない、世界はコロナ恐慌が起きると考えた。アメリカも感染からは逃れられないとは思ったが、まさか、ここまで弱さを露呈するとは予想もしなかった。


アメリカで最初の感染が確認されたのは1月21日、2月25日までにアメリカで確認された感染者は53人。サンフランシスコ市長は非常事態宣言を早々に発表した。感染拡大を受け、カリフォルニア州知事は3月4日、州全域に非常事態宣言を出した。続いて7日、ニューヨーク州アンドリュー・クオモ知事は非常事態を宣言。ニューヨーク州で初の感染者が確認されたのは3月1日である。初動としては決して遅くはない。しかし、サンフランシスコ市や同市が属するカリフォルニア州とのこの僅かな差が後にニューヨーク州に大きな惨禍をもたらすことになった。

 

3月13日に入って、トランプ大統領は全米非常事態宣言を発令した。


4月10日時点

 ニューヨーク州では死者数7067人。前日より799人増え、1日の増加数としては過去最多。病院の遺体安置所がいっぱいになり、冷蔵トラックに遺体を運び込んでしのいでいる光景が映像として映し出されていた。葬儀場も新たな受け入れが難しくなっている。全米での感染者469,021人 死亡者16,675人、感染者数ではイタリア、スペインを抜いて1位。死者数ではイタリアに次いで2位となった。トランプ大統領は死者10万で収まれば上出来だと嘯いた。日本で首相がこんなことを語れば、一瞬にして首が飛ぶ。コロナ戦争に立ち向かう大統領として支持はまだ落ちていないと云う。何ともアメリカという国はというより、アメリカに於いては大統領と云うのはそれ程の存在なのである。

 アメリカ合衆国憲法は大統領が「重大な犯罪および罪過によって弾劾されたり有罪判決を受けた場合は,その職を追われる」と規定している。犯罪であって、失政では罷免されない。議院内閣制と違うところである。過去アメリカで弾劾裁判が決議された大統領は4人、ウオーターゲイト疑惑のニクソンは採択直後辞任したため裁判にはいたらなかった。クリントン大統領の不倫もみ消し偽証疑惑は無罪、トランプ大統領のロシア疑惑も上院で無罪判決になっている。罷免された大統領はいない。


5月17日時点

感染者150万人、死者89,420人、どちらもダントツに世界一、グレートであった。図らずもトランプの10万予想は当たり、更に越す見込みである。そんな中、経済活動再開に大統領は舵を切った。


CDCがありながら、なぜアメリカでかくも急速に感染が拡大し、多くの死者を出すに至ったのであろうか?これについて、専門家は初期の検査体制の不備、遅れを指摘している。CDCが独自開発にこだわった(WHO基準でない)検査キットを2月第1週に全米の各州に送ったが、正しい判定結果が出ないものが多数あり、使い物にならないことが分かり、多くの州で検査できない状態が続き、検査態勢が整ったのは3月に入ってからであった。

この間CDCによる検査は1日100件程度に限られ、対象も中国をはじめとするアジアからの帰国者やその接触者に限定された。


それから、トランプ大統領を筆頭に、国民一般も新型コロナ感染症を対中国蔑視も含め、アジアの一角中国、韓国、日本で騒いでいるアジア病的な見方があった。それが、イタリアが炎上し出してから、「ちょっと違うな」と危機感を募らせて来た。ヨーロッパからの入国規制は対中国のようにはいかなかった。表玄関は閉じられたが、裏玄関は空いたままになっていたのである。

遠いところのものとして危機感を感じていなかった証拠として、『謝肉祭を開催したルイジアナ』が挙げられる。人口456万人のルイジアナ州ニューオーリンズでは、2月24日、例年通り盛大なマルディグラのカーニバル(謝肉祭)が行われ、約140万人の旅行者でごった返した。CDCが警告を発した前日であった。その2週間後から感染者が出はじめた。4月3日現在、州の感染者数は1万297人に膨れ上がり、死者も370人に上る。うち3476人がニューオーリンズでの発生で、感染者急増の「ホットスポット」になってしまった。

ニューオーリンズのカントレル市長は、「トランプ政権が新型コロナウイルスの危険について早期に警告していてくれれば、マルディグラは中止していた」と連邦政府への不満を隠さなかった。


驕れるアメリカの油断!新型コロナはアメリカの一番弱いところを突いた。

極端な格差社会。一部の富裕層の下に広がる広範な貧困層の存在。その多くがヒスパニックや黒人たちである。感染爆発の中心になった、ニューヨーク州の貧困地帯の劣悪な住環境が報じられていた。そして国民皆保険を拒む民間保険が中心の医療保険制度がある。人口の15%(5000万人ほど)は、無保険状態である。この中には不法移民1,110万人、アメリカ人口の3.5%を占めると推定される存在がある。彼らは病気にかかっても、病院には行かない。べらぼうな高額医療費は払えないし、仮に払えても、不法移民が分かり強制送還されることを恐れる。


1965年に高齢者のための医療制度メディケアと、貧困層のための医療制度メディケイドが導入されているが、メディケアでは平均的な加入者の医療費の48%しかカバーしていない。半分は高い民間保険を使うしかない。メディケイド(4,300万人)では不法移民らがこぼれる。これを是正しょうとしたのがオバマケアであったが、保険業界の反発もあって皆保険には遠く、中途半端なものとなった。

新型コロナは貧困層、ヒスパニック、黒人、不法移民らを直撃した。ニューヨーク州では、死亡者数の7割は彼らが占めるとされている。これについてクオモ州知事は、テレワーク等が使える層と違って、彼らは働くために外に出て行かざるを得ないと分析している。自由を信奉しているアメリカではあるが、死ぬ自由もまた格別なのである。


ニューヨーク州のクオモ知事は人工呼吸器が足りなと悲鳴を上げた。中国は4月5日、その呼吸器を1000台ニューヨーク州に寄贈した。3日後の8日、中国は77日振りに武漢の封鎖を解除した。アメリカはトランプが「武漢ウイルス」「チャイナウイルス」と揶揄したウイルスとの戦いの真っ只中にあった。



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