第8話 開戦

 例によって、日米ホットラインのLEDが赤く点灯している。この他の国々とも、ここ数日間は頻繁に首脳同志の電話会議が行われていた。

「チンゾー、分かったぞ。」

「解析が済んだのですね。」

「我が国のCDC(アメリカ疾病対策センター)のブルーフィールドから、先程とんでもない情報が入ったのだ。よく聞いてくれ。このたび我が国やイタリヤで爆発的に感染拡大しているは、我々が散布したバットマンβウィルスではない。」

「ではやはり、手違いでαウィルスが・・・」

「最後までよく聞くんだ。もっと大変なことだ。我が国とイタリヤの患者の検体から検出されたのは、中国が10年ほど前から研究・培養していたエボラとコロナ肺炎の人工合成ウィルスだ。正真正銘の化学兵器だよ。」

「何ですって。では、偶然にも中国が同様の作戦をしかけてきたということですか」

「それはまだ分からない。ただ、この人工ウィルスは我々が研究してきたバットマンαと同様、強烈な感染力と致死力を持っているということだ。」

「中国はそんなものを使ったというのですか。これは・・・、核攻撃と同じ意味を持つということになりますね・・・。」

「その通りだ。だからこそ、ロンドンやニューヨークを避けたのだよ。君の前だが、我々が東京を避けて広島と長崎に原爆を投下したのと同じ理屈だ。」

「今後の我々の対応を考えねばなりませんね。」

「すぐに西側各国の首脳にテレビ電話会議の招集をかけるつもりだが、さきほど既に我が国の感染者が出ている州とイタリヤ、スペインには即刻都市封鎖することを命じておいた。郵便物なども含め、物流の完全遮断を行う。各都市の市民には申し訳ないが犠牲になってもらうより他はない。」

「それはやむを得ぬ選択でしょうね。それより、他の都市が標的になる可能性も否めないと思うのですが・・・。」

「それは、ない。先ほど言った太平洋戦争の時と同じ理屈だよ。戦争の目的は敵を壊滅させることではないんだ。大きなダメージを背負わせるところにある。特に精神的ダメージがカギなのだ。その結果長期間に渡って相手国を思うがままに操ることができる・・・。おっと、失敬。」

「いや、かいませんよ。多くの日本人はそのへんのことはよく理解しています。我々は潔い民族でしてね。どこかの国のようにいつまでもしつこく賠償を要求したりはしません。ところで、こうなった以上、この戦争に勝つための手はあるのでしょうか。」

「一つだけ、ある。向こうがその気なら、いよいよ我々も本気で対応しなければならない。そして西側諸国が、一致団結してことにあたらなければならない。」

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