第9話 テレビ会議
「皆さん、我々は今こそ一致団結してことにあたらなければならない。どうか私の提案に協力してほしい。」
「スランプさん、ちょっと待ってくれ。我々フランスとしてはあんたたちの喧嘩に巻き込まれたようなもんだぜ。東京オリンピックなど中止になろうとかまわないが、7月末のツールドフランスが開催できないとなれば、我がフランス国民は一揆を起こすかもしれませんぜ。」
「その通りだ。我らイギリスはドーバーで仕切られているものの、カモメでさえ飛んで来れる程度の距離なんだ。いつ新型ウィルスが飛来してもおかしくない状態なんだぞ。加えてEU離脱で国民が割れてるというこのタイミングに・・・。責任をとってもらおうか。」
「諸君、どうか落ち着いて聞いてくれ。これは、ある意味チャンスなんだよ。」
「チャンスだと?冗談じゃない。我等のミラノでは既に5万人が死んでるんだ。」
「モンテ首相、なぜイタリヤが狙われたか、あなたは理解できていないようだ。はっきり言おう。ヨーロッパでもっとも中国寄りだったのは君の国だよ。私は再三忠告したはずだ。次世代通信網についても、中国規格を採用すると決定したのだろう?違ったかね。」
「それは・・・」
「つまり、今ヨーロッパで一番中国人が多いのは貴国イタリヤなのだ。中国の工作員が多くの東洋人に紛れてブラブラしていても、誰もなんとも思わない。そんな国にしてしまったのは、君じゃないか。」
「同じアジア人としてあまり中国を悪くは言いたくないのですが、彼らは我々日本人から見ても油断ならない面があるのは事実です。金のためなら何でもする、いままで何度も痛い目に会ってきました。皆さんも、偽ブランド品、臓器売買、ウィグル人虐待などの事実は把握しているはず。こんな国が今世界のリーダーに躍り出ようとしているのですよ。もちろん、我々がアメリカの同盟国であるということを前提に聞いてくださってかまわないのですが、ロシアが力を失った今、世界の均衡を保ってきたのはアメリカです。これが気にいらないと言って中国にくら替えするならまだしも、現在みなさんがやっていることは、目先の中国マネーに目がくらんでいるだけではないですか?」
「私からも言わせてもらうわ。チンゾーさんとスランプ氏の言う通りで、我が国のネルセデスもアウビィも、次世代自動運転では中国に大きく差がついてしまいそうなのよ。ただ、これは価格を安く抑えるという彼らのいつもの戦略によるものよ。携帯端末なら安かろう悪かろうで済むはなしでしょうけど、自動車は人の命がかかってる。でも、我々は今何もできないで、中国の進出を指をくわえて見ているしかない状態なの。そういう意味では、これは中国に一矢報いるチャンスかもしれないわ。」
「皆さん、よく考えていただきたい。確かに私は、国民たちには「アメリカファースト」と宣言して政治を進めている。ただ、これはここだけの話、票を得るためだ。私もバカじゃない。世界的に我が国の果たす役割については十分承知ているつもりだ。その証拠に、未だに米軍は日本をばじめ多数の国に駐留させたままだ。国連にも多額のドルを支払ってきた。それで世界はある程度均衡を保ってきたのだ。それが、中国マネーが入り始めてからどうなった?アジアの貧しい国やアフリカをはじめ皆さんの国においても、さまざまな混乱が起きている。中国の横暴を止める方法が他にお有りで?やるとしたら何時ですか?」
「今でしょ。」
「チンゾー、今日は冗談は控えてくれ、これは戦争なんだ。そこで私は皆さんに提言したい。それはこれだ。」
今までスランプの顔が映されていた画面に、英語の単語が映し出された。
Grasshopper of Desert Operation
「砂漠のバッタ作戦!?」
一同のざわめきが各国の言葉でスピーカーから漏れた。
「これから説明するのは、中国を世界の標的にでっちあげて、共産党をオワコンにする作戦だ。まず、今回のウィルスが武漢から発生したという点を強調し、全世界の非難の矛先を中国に向けさせること。イタリヤや我が国では実際に武漢の化学兵器による死者がたくさん出ているわけだが、これが全世界に拡がったかのように見せかけ、何十万人もの人々が死んでいると大げさに宣伝し印象づけるのだ。実際の死因は何でもいい。季節性の風邪、その他呼吸器の疾患、老衰、交通事故でも何でもよい。医師たちにCOVID13が死因という死亡診断書を書かせればよい。そうやって実際よりも大幅に水増しした死者数をでっちあげ、マスコミに報道させまくるのだ。そうすれば、全世界の人々の恐怖とともに中国への非難は今以上に高まる。そして感染の嵐が過ぎ去った後に、我々はこれらについての損害賠償を中国に突きつけるのだ。」
「スランプさん、作戦はよく分かりましたが、作戦名がよく分かりません。」
「まったく日本人は英語が苦手だからな。それとも自動翻訳機が壊れてるんじゃないのか?どこの製品だね?」
「中国製です。」
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