第5話 復讐
「張浩然同志、とても私には信じられんが、それはただの仮説なのか?それとも、そんなことが行われたという証拠があるのかね。」
習陳平はあり得ないといった表情で張浩然の自信ありげな顔を覗き込んだ。
「はい。昨日武漢の陸軍部隊に感染源とされている海鮮市場の周辺を徹底的に捜索させたところ、案の定、付近の川の中から数日前に墜落したと思われるドローンが一機発見されました。リレー装置と100CCほどの瓶が取り付けられていました。それから、武漢市の患者たちの検体を分析しましたところ、アメリカ軍が生物兵器として開発していたバットマンアルファウィルスに酷似したものが検出されました。ただ、毒性は甚だしく低いようですが。」
「何ということだ。武漢研究所のウィルスの漏洩ではなかったと言うのか!」
「アメリカにまんまとやられましたね。このように我が国を混乱に陥れて、経済的損失を図るのがスランプの狙いでしょう。5G関連でしのぎを削る米国が、もし我が国を叩こうとするならば、経済の中心都市である武漢や深圳を標的とするのは当然です。さらに武漢ならば、今回のように我々共産党本部がウィルス感染を疑って慌てふためく・・・。まさに、アメリカの思う壺というわけです。」
「つまりこれは、宣戦布告と考えてよいわけだな。こんなことが許されてたまるか。我々をなめるとどうなるか、一つ思い知らせてやろうじゃないか。張、このことは誰かに話したか?」
「いえ、政府関係者にはまだですが、医療従事者の中にはいろいろと疑問を呈する者が出始めています。」
「よし、それなら、その医療従事者たちの疑念を逆手に取ろう。信用できる医師を選んで、芝居をうってもらうのだ。」
「芝居、といいますと?」
「武漢で謎の感染症が拡大し大多数の死者が出ているとの報道を、国際的に拡散させるのだよ。つまり偽ウィルスで我々を陥れようとした奴らの裏をかくのだ。」
「しかし、それだけでは実際に奴らには対した損害はありませんが。」
「いいか、中国でこれだけ死者が出ている、となれば世界はどう考える?『ウチの国にも感染するのではないか、世界的にパンデミックが起こるのではないか』そう考えるのが普通じゃないか。」
「でも、実際に感染者が出たところで誰も死なないとなれば、我々の芝居もすぐばれますし・・・。」
「出すのだよ、大量の死者を。本物の武漢ウィルスをお見舞いしてやるのだ。」
「なるほど理解できました。世界的なパンデミックを起こして、逆に米国を混乱に陥れるということですね。」
「そのとおりだ。張同志、これはもはや戦争だ。そして、戦いには勝たねばならない。とにかくまずは情報操作をして、我が国に多数の患者、死者が出ているように装え。死体が積み上げられている映像や市中で人が倒れる動画を、ツイッターやユーチューブを使ってばらまけ。さらに、共産党がそれをやっきになって取り締まっているなどという演出も効果的だ。その上で、我々開発した本物の武漢ウィルスをお見舞いしてやろうじゃないか。」
「アメリカにですね?」
「いや、まずは奴らを混乱させ震え上がらせるために、第3国から試せ。」
「では、日本あたりを巻き込むというわけですか。」
「待て。致死率と感染力が強力な本物の武漢ウィルスを使用するのに、日本はまずい。未だに日本の航空機は武漢以外の空港には往来しているのだから。第1のターゲットは、もっと我が国から遠い場所を選べ。そうだな、われわれの一帯一路構想に表面では賛成しているが、その実我々の資本だけを目当てにしている輩、心の底で我等を相変わらず差別的に考えている連中がいるじゃないか。」
「ヨーロッパですね。」
「そうだ。第1のターゲットはヨーロッパ全土。それから当然アメリカにも報復する。具体的な都市と効果的な散布方法は、お前に任す。とにかく奴らを震え上がらせてやれ。混乱に叩き落とすのだ。それから、攻撃にはドローンを使えよ。フフフフフ。」
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