第19話 王都でやること


 王都アステロッサ。


 ここは物語の中心地であるバーナムの次に大事なエリアだ。


 無数に分岐する物語なので、一概には言えないが、パターンによってはバーナムより王都にいる時間のほうが長くなることもある。


 それに、ストーリーミッションのいくつかは、この王都で行われる。

 そのため『フラッドボーン』のゲーム中では、何度も行き来することにもなる舞台だ。


「よし」


 港に到着するなり、俺はカバンを片手にいち早く船を降りた。


 理由は簡単だ。


 彼女に見つかってしまったから。


「こらぁあ! 待ちなさいよっ! なんで逃げるのよー?! なにもしないから、待ちなさいって、ねぇってばぁー!」


 手をぶんぶん振って可愛く怒るアベル嬢に構わず、俺は港を突っ切る。


 後ろから官憲隊が追ってきていたが、これにも関わらない。


 彼女には出来るだけ干渉しちゃいけないのだ。


 彼女には@ChikubiDaisuki0920といい感じになってもらって、彼のことを助けてもらわないとなんだから。


 うん……そうじゃないと、ダメなんだよ。


 俺は涙をぬぐいながら、必死に走った。



         ⌛︎⌛︎⌛︎



 しばらく後。

 

「よく探しなさい! あのエドウィンという銀人を必ず捕まえるのよ!」


 甲高く命令をだすアベル嬢の声が聞こえる。


 彼女の命令に対し、統率のとれた官憲隊は返事をかえして、石畳みをカツカツ鳴らしながら、たくさんの足音が遠のかせていく。


「行ったか」


 俺は身を潜めていた屋台の裏側から、ひょっこり顔を出して表通りをうかがった。

 

「勘弁してくれよ、兄ちゃん。官憲隊に追われれてるなんて……もしかして、犯罪者かなんかなのか?」


 屋台の店主は、眉をひそめて怪訝に聞いてくる。


「いや、犯罪者じゃない。さっきのご令嬢が俺にお礼がしたいらしくてな」

「あんな美人な令嬢なら、逃げることには思えんがね」

「まあ、普通はな。…………俺は銀人だ。いろいろ、あるんだよ」

「っ、遥か東の辺鄙な医療の街……。そこに、血塗れの呪われた役職があるっていうが……あんたはそこの出身ってわけかい」


 店主の声が低くなる。

 

 俺がバーナムの魔獣狩りの者とわかるなり、態度が急変した。


 当然か。


 『フラッドボーン』のなかでもそうだったが、基本的に銀人というのは好まれる存在じゃない。


 『魔獣狩りの夜』に分厚い刃と、銃をもって、夜明けまで魔獣を追いまわして、街を死者であふれさせるのが仕事だからな。


 朝日が昇る頃。

 家にこもっていた市民が顔をだすと、そこには血に濡れた銀人の姿がある。


 かつての時代。

 最初期の銀人『聖剣のラダウィーク』がバーナム市民のなかから銀人を集い、魔獣狩りをはじめた頃は、『銀人』を英雄としてあつかった時代もあったようだが、それも『フラッドボーン』のゲーム内だと、遠い過去の出来事とされている。


「悪いが、店に近寄らんでくれ。……けがれちまう」

「……」


 店主は顔をそむけて言った。


 俺はそれを受け、黙って露店をあとにする。


 仕方のないことだ。

 銀人には深く関わりたくない。

 これはバーナムの中でも、外でも共通の認識なのだから。



         ⌛︎⌛︎⌛︎



 露店街をぬけて、宿へとやってきた。


 決して高くはない質素な宿だ。


 お金はエドウィン青年の意外に蓄えていた貯金から、なるべく出すようにしてるが、ミスター・クラフトからもらったお金も使わざるおえない。


 ただ、出来るだけ出費はおさえる。


 俺はこれでも社会人24年目。

 自分の生活費は、なるべく自分でまかないたいのだ。


 俺は宿にカバンを置いて、王都に滞在する4日のスケジュールを確認する。


 王都アステロッサにいる間にやらないといけないことは5つある。


 ひとつ目はアベル嬢の命を助けること。

 実は彼女、まだ死ぬ可能性が残っている。


 ここまで来たのだから、絶対に生き残ってもらわないと困る。


 ふたつ目は、助けたアベル嬢から″武器″を受け取ること。

 彼女は貴族、それもバーナムの『水』と深い関わりのある″水の貴族″なので、あの街から王都へ避難したさいに、ある種の武器を持ってきたはずなのだ。


 俺の戦力を増すためにも、ソレはここで手に入れておいた方がいい。


 みっつ目は、@ChikubiDaisuki0920がのために、アイテムを手に入れて供給すること。

 バーナムにいるうちは、アイテムの購入数に上限があるので、過去の俺であるヤツならば、間違いなく『水血液』も『水銀弾』も枯渇して苦しんでいる。

 王都アステロッサにはじめて来た時は、闇のブローカーから購入できるアイテムの上限がバーナムの3倍以上あって大喜びしたものだ。


 ただし、物価が10倍だったので、ほとんど購入できず苦しい思いをしたが。

 そして、そのせいで死にまくった。

 これを回避するために、クソ雑魚プレイヤーである@ChikubiDaisuki0920には、十分なアイテムが必要なのだ。


 よっつ目。

 これは後のストーリーミッションのための布石だ。

 王城に忍びこんで、あることをすると、中盤のボスをここで叩いておける。

 そうすると、あとで戦うときに、ボスのHPが半分の状態からスタートできる。


 クソ雑魚な@ChikubiDaisuki0920には、必須となる処置である。


「さてと。やることが多いな。だけど、全部こなさないと『バーナムの夜明け』にはたどり着けない。気合入れていくぞ」


 俺はスケジュール表を確認し終えて、宿屋をでた。


 まずは、王都アステロッサが『フラッドボーン』のなかと、変わりないかを確認する。


 そして、やることの5つ目だ。

 

 王都に潜む魔獣を殺してアイテム『水の意志』を回収すること。


 『平穏』フェイズ中に入手可能な経験値源。


 ほかにもサイドミッションとかバンバンこなしたり、ミニゲームや、建築とかして経験値を稼げるプレイヤーにとっては、ごくわずかな、雀の涙ほどのボーナスだが、モブキャラである俺にとっては、かけがえの無い経験値リソースだ。


 あのクソ雑魚プレイヤーに取られるまえに、俺が取得しておかなければならない。


「行くか」


 俺は『魔獣狩りの短銃』を6丁装備して、宿屋をあとにした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「面白い!」「面白くなりそう!」

「続きが気になる!「更新してくれ!」


 そう思ってくれたら、広告の下にある評価の星「☆☆☆」を「★★★」にしてフィードバックしてほしいです!


 ほんとうに大事なポイントです!

  評価してもらえると、続きを書くモチベがめっちゃ上がるので最高の応援になります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る