第18話 魔獣狩りの銀弾
目標の魔獣はイベント用の敵だけあって、最初のストーリーミッションをクリアした段階で挑むには、やや難しく設定されている。
さらに、俺はプレイヤーではなく、モブキャラ。
まともに戦うのは、船という限られた空間も作用して、かなり不利になりやすい。
俺の武器『魔獣狩りの短銃』だけで倒すのも、やや不安が残るHPだ。
ただ、やらないといけない。
どんな不利でもやらなきゃ、明日は来ない。
この船は、『フラッドボーン』では珍しく、沈めることが出来ないタイプの船だし、何より今沈めたらアベル嬢も死んでしまうし。
自力で倒さないとだ。
俺は目標の『魔獣』がいるだろう部屋のまえに貼りつき、ドアの隙間からなかの様子をうかがう。
いた。
大丈夫、まだ人間形態だ。
今のうちに準備しよう。
⌛︎⌛︎⌛︎
俺は目標が来るであろう、その部屋から一番近いトイレに閉じこもった。
ーーパリン
トイレに入るなり、まずは
そして、その中から一番大きい破片を手に取って、3つ並んでるトイレの個室のうち真ん中にはいった。
便座に腰掛け、戦いの準備をする。
ホルダーから『魔獣狩りの短銃』を取り出し、中折れ式バレルを開いて、装填されていた水銀弾をとりだす。
外套のなかから金属瓶を取りだして、そのなかの灰を、水銀弾に吹きかけ混ぜこむ。
これで、ひとつ完成。
そのあと、続けて2つの『洪髄の灰』を使用して、『洪髄の灰』による水銀弾のエンチャントを完了した。
この先『洪髄の灰』は使用したい場面がある。
いくつか残しておきたいので、全部は使えない。
俺はエンチャントされた銃を左右のホルダーにそれぞれおさめて、一丁は手に持って、便器に腰掛けて待機した。
これで準備完了だ。
⌛︎⌛︎⌛︎
しばらく待った。
ーーガチャ
トイレのドアが開く音がして、コツコツという足音がはいってくる。
足音は迷いなく、俺の隣の個室便器へとはいっていって、扉を閉めた。
鏡が割れてるというのに、気にした素振りすら感じられなかった。
平常の者なら、まず叩き割られた鏡に気が向くというのに。
実は『フラッドボーン 』というゲームに出てくる『魔獣』たちは鏡に興味を示さない。
『魔獣』とは人間の内面にひそむ″獣性″の本領であり、それはすなわち、すでに内面に潜んだ影の反射にほかならないからだ。
鏡に映った自分は、現実の自分を意識しないのと同じように、彼らは鏡に映るという事象にたいして興味をもたない。
「……」
俺は黙ったままそっと立ちあがり、割れた鏡の破片をたかくかかげて、すぐ横、ジョボジョボと音が聞こえる個室のなかをうかがった。
すると、そこには、死体の第一発見者である″女性″が用をたしている姿が映っていた。
そう、実はここは女子トイレである。
俺は個室を出て、女性のはいる個室の前にたつ。
鏡の破片を放り捨て、代わりに持つのは腰裏から抜いたエンチャントしてない銃。
こいつが、マスターキーだ。
迷わず扉の金具へ、発砲して鍵を破壊した。
ーーギャインッ
「きゃあ?!」
いそいで扉を引き開けて、俺は便座に座る女の頭を『洪髄の灰』で強化された灰エンチャント銃で撃ち抜いた。
ヘッドショット。
「グギァァァァァア!」
女性は頭の半分を吹き飛ばされるなり、人間のものではない怒号を響かせた。
俺はすかさず、銃を放り捨て、二丁目の灰エンチャント銃で女の頭へ狙いをつける。
すると、女は白い肌から濡れた黒毛をワサッと生やして肥大化した手で殴りつけてきた。
「あっぶなッ?!」
なんとか、しゃがんで避ける。
ついでに銃を撃ちこむ。
これでカウンターとヘッドショット判定か。
「グギァァアアッ! ぐぅううう、アナタ、よく、ワカッタ、ワネェェエエ!」
血と肉を撒き散らし喋る魔獣。
「現場に残ってた死体は、死体と呼べるかもあやしい肉塊だった。なら、なぜお前は死体が女性であることを知ってたんだ? 自作自演してなにかしようとしたんだろうが、墓穴を掘ったな、ケモノ」
「グソォオオオオッ!」
挑発に暴れはじめる予感がしたので、俺はすぐさまトイレを飛びだした。
走って向かうのはデッキ。
あそこならもう人はいないだろうし、戦いやすい。
走りながら空の銃と、最後の灰エンチャント銃をもちかえておく。
「マテェエエエエ、ギェェェァァアア!」
「っ、思ったより速いな」
ずっと後ろ。
狭い通路を、傷だらけの体から膨大に出血しながらも、魔獣と化した女が追ってくる。
俺はすぐに振りかえり、ここで確実にダメージを入れておくために銃を構えた。
魔獣はビクッするが、そこは狭い通路だ。
巨体では避けることなどできない。
「ヤメ……ッ!」
引き金を引く。
ーーヴァン゛ッ
甲高い撃鉄音が響き、火花が散る。
通路をいっぱいに体を押し込んでいた『魔獣』が動かなくなった。
最後の灰エンチャント銃で魔獣と化した女の頭を完全に吹っ飛ばしたのだ。
俺は腕をだらりとさげて、大きく息を吐いた。
よかった、灰銃3発でカタがついた。
途中、カウンター判定でヘッドショットを入れられたのが、存外に良いダメージを入れていたらしいな。
それにしても……怖かったぁ……。
「今、銃声が……って、えぇえええ、な、なな、何事ですか、これは?!」
「ぁ、アベル嬢……」
通路をふさぐように死んだ『魔獣』の向こう側から、手のかかる貴族様のアベル嬢がさけんだ。
「っ、あ、あんた……っ!」
「人違いです」
アベル嬢と目があってしまったが、まだ誤魔化せるよね。……いけるよね?
なんか、こっち側へ来ようとしてるが、魔獣の死体が邪魔でこれてない。
ああ、ダメだ、この感じはバレたな。
ぞくぞくと人も集まって来そうだし、ここは早めに退散しようか。
⌛︎⌛︎⌛︎
その後、俺は船員たちへ何があったのかを伝えて、彼らの予想どおり、船に潜んでいた『魔獣』を俺が殺したのだと説明した。
事前に、倉庫で現場検証してる段階で船員たちに『銀人』である俺の存在と、敵が『魔獣』である可能性を
実は『魔獣』を殺すまえに、倉庫で現場検証に参加しておかないと、この段階でいろいろ面倒なことになるのだ。
まあ、初心者が陥りがちなミスなので、俺が間違えることはないが。
「ちょっと、あの『銀人』どこいったのよ!?」
船員たちへ話をしていると、扉の向こうから高飛車なアベル嬢の声が聞こえて来た。
「これで失礼します。あのご令嬢には俺の部屋は教えないでくださいね」
「は、はい、わかりました、それでいいのなら……」
俺は船員へ口止めをして、そそくさと船室をあとにした。
⌛︎⌛︎⌛︎
女子トイレに戻り、捨てた銃を拾いにいく。
「あったあった」
壮絶な様相となっているなか、血肉を踏み分けて、俺は便器のなかに落ちている血の塊を手に取った。
これは『水の意志』と呼ばれるアイテム。
使用すると一定量の経験値を得られる。
収入源の少ないモブキャラにとっては貴重な、レベルアップのリソースだ。
⌛︎⌛︎⌛︎
その後、何か変わったことがあるわけでもなく。
船内を探しまわる貴族令嬢様の目を掻い潜ること2日間。
船は王都アステロッサに到着した。
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