第17話 船の人狼イベント
船がバーナムを出てから1日が経った。
その間、なにか変わったことはなく、ただただ波にも揺られない退屈な時間がすぎた。
ーーカチッ
懐中時計で時刻を見ると18時をまわったころだった。
「そろそろだな」
俺は懐中時計をふところにしまい、外套を着る。
そして、腰の左右のホルダーに『魔獣狩りの短銃』を1丁ずつおさめ、腰裏に4丁の銃を仕込んだ。
外套を着ていなければ、とてつもない不審者として船を下ろされているところだ。
『水血液』『水銀弾』『洪髄の灰』など、もろもろの装備を確認して、俺は部屋をでた。
⌛︎⌛︎⌛︎
これから、この船であるイベントが起こる。
その名も″人狼イベント″だ。
サイドミッションのたぐいなので、やらなくても世界が滅んだりはしないが、ここで助けておかないといけない人物がいる。
例にならって、アベル嬢である。
初日に助けたアベル嬢は、あのあと『官憲隊』に保護され、王都へ帰るための船を待っていたのだ。
つまり、アベル嬢と、彼女を取り返すためにやって来た『官憲隊』が今、王道への帰り道である、この船には乗っている。
彼らは放っておくと確率で死亡する。
そのため、初心者の多くが、アベル嬢を最初の夜に助けたあとは放ったらかしにしてしまい、この船で死んでしまう事になる。
彼女にはあとで、この世界の主人公である@ChikubiDaisuki0920を助けてもらわないといけないので、ここで死なれるわけにはいかない。
ゆえに助ける。
『官憲隊』を襲撃し、アベル嬢を殺すのはこの船に紛れ込んだ『魔獣』だ。
この『魔獣』は、いくつかの候補者のなかから、ランダムに出現するようになっている。
おそらく現時点では、まだ『魔獣』が誰になるかは決まってない。
このイベント『魔獣』は特別で、理性があり、普段は人間の姿をして、腹が減ると姿を変えて人間を喰らう習性がある。
今は、船の搭乗員に偽装しているのだ。
もちろん、候補者8名の顔と名前、船のどの位置にリスポーンするかはすべて俺の頭のなかに入っている。
早々に殺して仕舞えばいい、と思われるかもしれないが、それは悪手だ。
なぜなら、ゲームのプロットからそれる可能性があるから。
この船に『魔獣』が紛れ込んでいるというイベントが確定している限り、必ず『魔獣』は姿を表す。
その候補者を全て殺してしまっては、俺の知らないイベントに発展してしまう可能性もある。
俺の対応力で対処できない事態は、極力避けなければならない。
「ここだな」
船のデッキにやってきた。
左右に立派な山々を一望できる絶景のなか、夜風をあびて、俺はデッキに、死体を見つけて狼狽した女性が出てくるのを待つ。
彼女が出てきたら″人狼ゲーム″のスタートだ。
「きゃあああ!」
デッキに響く、馴染みある悲鳴。
さっそく来たな。
船のなかから顔色を蒼白にかえた女性が飛び出してくる。
もう何回見たかわからない見慣れた演出に、不思議と頬がゆるむ。
「じょ、女性の死体が倉庫室に……!」
騒然とするデッキで、その女性は口早に告げると気を失ってしまった。
「これは大変だ!」
怪しげな丸メガネをかけた紳士は、わざとらしく叫ぶ。
「皆さん、今すぐ個別の部屋へ戻ってください!」
ちょび髭をはやした船員は叫び、皆がそれにしたがって動きはじめた。
「この女性のお連れの方はいますか? 誰か彼女のそばにいて欲しいのですが……」
ちょび髭の船員が言うと、スッと進みでる人影がひとつあった。
「あたしが見ましょう。市民を守るのは貴族の務めですから」
ワイン色のドレスを着た少女が言った。
アベル嬢だ。
ここで進みでて女性の介抱をする、と。
ふむ、パターン4だから……もう、八割方、″人狼″は確定したな。
「では、よろしくお願いします」
ちょび髭の船員は、目元に影をつくり、アベル嬢率いる『官憲隊』の隊士2名に女性を任せて奥へと引いていった。
「ん?」
ふと、帰り際、アベル嬢がおもむろにこちらは振り返った。
気まぐれな動作に、思わずびっくりして顔をそらす。
やめろよ、そういうの。怖いから。
「……」
「どうされましたか、アベル様」
「今、バーナムの旧市街から助けてくれた
アベル嬢は月夜にはえる涼しげな微笑みをうかべて、船のなかへ女性と隊士たちとともに入っていった。
あっぶな。
バレるとゲームのプロットにモブキャラ混じって、予想外展開は不可避なんだ。
まじで、勘弁してくれよな……。
⌛︎⌛︎⌛︎
アベル嬢と隊士が無事に部屋にもどったのを確認して、俺は死体が発見されたという現場を見にいくことにした。
「おっと、失礼」
廊下で丸メガネをかけた紳士とすれ違う。
「ん、あなた……もしかして……」
「……」
なにか言いかける丸メガネの紳士。
「いえ、なんでもありません」
俺が沈黙をし続けると、丸メガネの紳士は怪訝な顔をして去っていった。
⌛︎⌛︎⌛︎
現場である倉庫には、数人の船員がいた。
皆が顔をしかめて、赤い肉塊を見下ろしている。
「……あなたは?」
船員のひとりが、俺の姿を見つけるなり、うろんげな声をもらした。
「『銀人』です。
本来ならプレイヤーが言うべきセリフをまねて言う。
すると船員は目を見開き「し、失礼しました、不躾な目で見てしまい……!」と異様なほど恐縮しはじめた。
この船には見た感じ@ChikubiDaisuki0920や、他の『銀人』は乗ってないので、上手くいったな。
許可を得たところで、現場を検証した船員に聞き込みをする。
すると、船員はこれが大きな獣の仕業に違いない、というわかりきった報告をしてくれた。
「かろうじて人の死体と判断できるだけです……銀人様、もしかして魔獣が……?」
船員のひとりが不安げな眼差しを向けてきた。
俺はゲームのなかの『銀人』らしく、無表情のまま「わからない」とつげた。
「ただ、可能性はある。もし『魔獣』が紛れ込んでいたら、俺が狩り殺しておこう」
「っ、ぜひお願いします、銀人様」
喜色をうかべる船員たちへ、俺は鷹揚に手をふる。
「……ケッ」
「ん、どうかしましたか?」
ただ、ひとり顔をしかめ、酷く不愉快そうな顔でこちらを見つめるちょび髭の船員へ、俺は視線を向ける。
すると、ちょび髭の船員は「いえ、別に……」と視線を泳がせて、倉庫を出て行ってしまった。
ふむ。
人狼は確定したな。
「失礼します」
一言残して、倉庫をでる。
本来なら、このあと聞き込みやアリバイを照らし合わせたりする犯人探しフェイズと、人狼による毎晩の殺害が起きる夜フェイズの、特殊なイベントに入るのだが、そんな面倒なことはしない。
俺は人狼ゲームがはじまる前に人狼を殺すべく、その者のもとへと直行した。
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