第12話 引越し提案

        



 翌日。


 水質特化させたはいい。


 だが、俺にはまだまだ頑張らないといけない事がある。


「くっ! ぅう、うなれ、筋肉!」


 歯を食いしばり、腕立て伏せ25回に挑む。


「エド、全然、体あがってない……」


 心配そうに見つめてくるのはマーシー。


 ああ、ダメだ。

 エドウィンの体が軟弱過ぎる。


 44歳で、ゲームばかりしてた俺が言えることじゃないが、まともに筋肉をつけるのは、本当に骨の折れる作業だな。

 何年も筋トレしてる奴らすげぇよ、


「エド、少し休憩したら?」

「ぅ、そうする」


 俺はそういって、マーシーからタオルを渡される。


 しかし、タオルを受け取ろうとしても、マーシーが手を離さない。


「拭いてあげるね」

「ん、ありがと」


 ニコッと優しく笑い、マーシーはあぐらで座るの対面に座ってくる。


 わさわさっ髪を拭きおえると、マーシーは俺の首にタオルをかけてじーっと顔を見てくる。


 美少女に見つめられて、ドキドキしてしまう。


「えへへ、目を逸らすなんて、エドは可愛いね♪」


 君の方がよほど可愛いよ。


「うわぁ、体あたたかくなってるよ」


 そう言ってマーシーは、俺のあぐらのなかにお尻をすっぽりおさめて座ってきた。


 上半身裸なところへ、サラサラの彼女の金髪がかぶさり、なんとも心地よい。


 後ろからそっと、手をまわしマーシーを抱きしめてみると、彼女はにへら〜と笑って嬉しそうに微笑んだ。


 おでこをぶつけ合う。

 ただ、まあ、ここは自粛してキスはしなかった。


 マーシーは不満そうだった。


「ねぇ、エド、私たち結婚しない?」

「そういうのはじっくり考えてからじゃないと……」


 彼女は若い。

 俺は渋い。


 結婚というものが、抱えるさまざまな問題を無視できるほど、俺は勢いをもてないのだ。


 こればっかりは、少し考えないといけない。


「どうして? エドは、私と結婚するのは嫌……?」

「っ」


 俺のあぐらに座るマーシーが、後ろを向いて、俺の首に手をまわしてくる。


 これは決定的だった。



         ⌛︎⌛︎⌛︎



 クラフト邸のお風呂をかりて汗を流し、俺はリビングへもどってきた。


 なにか書き物をしてるミスター・クラフトを発見。


 そうだ。

 彼にも話しておかないといけない事があるんだった。


「こんにちは、クラフトさん」

「ん、エドウィンくん、こんにちは。さっぱりしたみたいだね」

「ええ、お風呂ありがとうございます。……ところで、ひとついいですか?」


 俺は呼吸をひとつして、先を続ける。


「バーナムから引っ越す気とかってありますか?」


 バーナムはこのあと地獄に変化する。

 まだ時間はあるが、街中が魔獣と化した人間であふれて、家のなかの人間たちも発狂し、ついにはすべての黒幕たちも主人公に倒されて、もうハチャメチャになる。


 モブなんて混ざってたら、多分、全滅だ。


 


 まあ、そうならないためには、バーナムから離れるのが一番いいわけだ。


 ミスター・クラフトは俺の提案を訝しんだし、当然引っ越しの予定はないと答えた。


 当然か。

 まあ、いい。


 バーナムから連れだすプランは、ある程度構想として考えているしな。


「あ、それと、もうひとついいですか、クラフトさん」

「また、何かおかしな事を言うのかな、エドウィンくん」

「ええ、おかしな事をひとつ。クラフトさん、マーシーを俺にください」


 俺は頭を拭いていたタオルを机に叩きつける。


 ミスター・クラフトは書き物をする手を止め、俺の顔を見てきた。


「いい目をするな。それは冗談じゃない、決断した男の瞳だ。……いいだろう、エドウィンくん、表へ出るんだ」


 ミスター・クラフトはそういって、重たい腰をあげた。


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