第13話 ミスターの誤解
クラフト邸の前の通り。
石畳みが敷かれたビクトリア朝時代の街並みを誇張して作られたバーナムの街並み。
ミスター・クラフトとマーシーと一緒に出てくると、ちょうど太陽が真上に登っていた。
真昼の決闘というわけだ。
「パパ、これはどういう事?」
マーシーが瞳に憂いを宿していった。
彼女には何も伝えられていない。
「マーシー、安心していいよ、パパほエドウィンくんを試すだけさ」
隆起した筋肉をピクッと動かし、到底、試すだけでは終わらなそうな戦意を見せてくる。
「エドウィンくん、私はかつて王都で騎士団に所属していたこともあるとだけ言わせてもらうよ。それが、わかってなお挑む覚悟があるなら、かかってくるといい」
浅黒い肌に似合ってないちょび髭を歪ませ、ミスター・クラフトは腰をかるく落とした。
デカい体を縮めてコンパクトに構えるミスター・クラフト。
騎士ということは剣が専門だと思ったが、どうやら拳闘の心得もあるらしい。
もっとも、『フラッドボーン』の世界では珍しいことではなかった。
あのゲームの中の騎士は、まるでポケモンみたいに目が合うと喧嘩をふっかけてくるチンピラ喧嘩屋ばかりだったからな。
ミスターとあって変わって、俺は、かつて″素手″だけ
素手状態のメリットはひとつもない。
『フラッドボーン』の世界なら、間違いなく最弱の武器だ。
だが、大丈夫だ。
俺の体はモブだが、そこには何度も世界を救い、何百万もの魔獣、何千人もの敵対プレイヤーを葬ってきたプレイヤースキルが蓄積されている。
「いくよ、エドウィンくんーー本気でね」
ミスター・クラフトは低い声で告げる。
すると、地面を蹴り、素早い動きで近づいてきた。
小手試しのジャブが繰りだされてくる。
連続して放たれる左手のジャブを首をふってよける。
「くっ! ずいぶんと目が良い!」
「どうも」
なかなか当たらない攻撃に、痺れを切らしたミスターの大振りの右ストレート。
体幹を崩さず、横ステップで余裕で回避。
「っ、それは銀人の動き……ッ?!」
目を見開き驚愕するミスター。
狼狽しながらも、彼はすかさず左フックを打ち込んでくる。
俺は彼の左を手刀で叩き落とし、もう片方の手による手刀を構えた。
溜め攻撃。
『フラッドボーン』の世界では、プレイヤーがある一定とポーズで″力む″ことで、パワーを溜めて強力な一撃を放てるというシステムがある。
この攻撃は相手の背後から当てることで、敵の姿勢を崩してさらなる致命攻撃に繋がることもできたりする、使用頻度の高い技だ。
ゆえに2万時間プレイした俺の体には、溜め攻撃の構え、溜めの最適な時間、溜め攻撃を打ちこむタイミング、場所、すべて記憶されている。
俺は俺の経験値を動員して、思いっきりミスターの首筋をぶっ叩いた。
「うがぁ!?」
ミスター・クラフトが首筋をおさる。
苦しそうに顔を歪ませた。
手応えあった。
最弱武器の素手でも、溜め攻撃に、ヘッドショット判定とカウンター判定の
「す、凄い……パパの方がずっと体が大きいのに、エドが勝っちゃった……」
マーシーは口元を押さえて感嘆する。
「俺の勝ちでいいですか?」
「……いいや、まだだ」
ミスター・クラフトは首をふり立ちあがる。
彼の瞳はまだまだやる気だ。
「エドウィンくん、私は君を誤解していたようだ」
注射器で『水血液』を体に入れながら、ミスター・クラフトは険しい顔でいった。
「君の悪い噂は聞いていた。不真面目で、塾でもろくに勉強しない、なのに態度はいっぱし、マーシーがいつも世話を焼いているとね」
「パパ! 違うわ! エドが塾で真面目になれないのは、普段から悪の秘密結社との戦いで心を傷ませてるからなんだよ!」
マーシーが涙目でフォローしてくれる。
だけど、やめてほしい。
それは俺にダメージが入る追撃だ。
「エドウィンくん、場所を移そうか」
ミスター・クラフトは治癒を終え立ちあがって言う。
俺はうなづき、第二回戦にうつるべく、ミスターの後を追った。
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