第14話 愚か者であれ、挑戦者であれ


 俺たちはクラフト邸の裏手へやってきた。

 クラフト邸の裏は鍛治工房となっており、熱気を逃すためにおおきく解放された空間となっていた。


「エドウィンくん、木剣ぼっけんを持ちたまえ」


 木製の剣を渡される。


 こんな武器もあったな。

 まともに考えるなら、まず持たない武器の素手と同じような扱いの道具。


 ネタ武器、縛りプレイ。

 木剣はそこらへんでしか輝かない。

 というか、使われることを想定していない。


 ただ、まあ、2万時間もプレイしてればそんなネタ武器でもそれなりに使った経験はある。

 

「君が噂とは違う、影で努力を重ねられる人間だとはわかった。だが、私にもプライドがある。メンツを立たせるために、すこし付き合ってもらうおうーーかッ!」


 言い終えるなり、奇襲気味の攻撃。


 工房の床を蹴って、ミスター・クラフトの巨体がせまってくる。


 振り下ろされる木剣。

 あのボディだとステータスうんぬんではなく、間違いなくパワーがある。


 実際に筋力の値も高いだろう。


 ゆえに、俺が選択できるのはひとつ。


 ミスターの突進を横ステップで右へ避けた。


「甘い!」

「っ」


 ステップを刈りとる水平横薙ぎ。


 同じプロセスなら対応されるか。


 『フラッドボーン』のNPCならこうはならなかったが……流石に生身の人間だな。


 俺は背後へステップして距離をあけた。


「な……ッ?!」


 ミスター・クラフトは目を見張り、声にもならない驚愕をもらす。


 うむ、どうやらプレイヤースキルのおかげで、俺はこの世界のモブキャラの中じゃ、そこそこ強いらしいな。


 ともあれ、隙ありだ。


 後方へ移動させた体を、ミスター・クラフトが横に斬り終えるのを見計らって、今度は前ステップで詰める。


 同時に袈裟懸けに木剣をふりおろして、俺はミスターの肩をたたいた。


 攻撃後の膠着時間。

 そこへ打ち込まれればカウンター判定。

 そして、首から上へ攻撃をいれればヘッドショット判定。


 さつきと同じだ。


「ぐっ……そんな、まさか……信じられん、この私が剣でも遅れを取るなんて……」


 ミスターは膝をついて、今度こそ負けを認めてくれた。


 わずかな運動でシャツがぐっしょり濡らした俺は、額からふきでる滝のような汗をぬぐい答える。


「はぁ、はぁ、いえ、俺もギリギリでしたよ……」

「はは、気を使わなくていいさ、エドウィンくんには余裕があった、そうだろ?」


 冷や汗をかき、驚愕を隠せない様子ながら、称賛をおくってくれるミスター・クラフト。


 俺は木剣をクセで腰のさやにおさめようとするが、ないことに気づく。


 にしても、VRシステムじゃなく、現実で動くとこんななも疲れるものなんだな。

 プレイヤーだった頃は、10時間以上、対人マッチを続けたこともあるが、モブキャラの肉体だと2戦、あるいは3戦が限界だ。


 それに、ただいま使ったステップ3回と剣を一回振っただけで、これほどに息があがってしまう。


 スタミナが低すぎる。

 やはり、近接戦は最終手段と考えたほうがいいだろう。


 はやく銃が欲しい。


「エド、ほんとうに凄いよ、騎士団員だったパパに、剣でも勝っちゃうなんて! ……ところで、これはなんの決闘だったの?」


 マーシーが愛らしく小首をかしげる。


 俺は彼女へ、これが婚約の許しをもらうための、男の戦いだったことを告げた。


「えぇぇえ!? そ、そんな、エドったら、わたしとは結婚できないって……」

「そういう意味じゃなかったんだ。不安にさせたなら、ごめん」


 動揺してるな。


 俺はミスターの顔をうかがう。

 すると、ミスターは俺へ、薄く微笑み力強くただ黙ってうなづいてくれた。

 

 許可はいただけた、かな。


 最愛の少女へ向き直る。


「マーシー」

「っ、は、はい!」

「君には想像できない困難がこの先にはあると思う。もちろん、俺にもわからない。ただ、どんな時も、これからは本気で生きると決めた。君を絶対に幸せにしてみせる。だから……俺と結婚してくれますか?」


 ひざまづいて、瞳をうるませるマーシーを見上げた。


 熱に浮かされてるのは俺も同じだったか。


 でも、いいんじゃないか?


 自分はおっさんだ。

 もう44歳だ、次なんてない。


 若者は何も考えてない。

 俺は大人だから賢い、短格的にはならない、いろいろ知ってるんだ。

 

 そうやって、自分を閉ざして、追いこんで、に、変化を恐れて、腰に重りをつけて、正当化する。


 俺たちだって、知ってるはずだ。

 若い頃の浅慮、短気、愚かな選択。

 

 だけど、そのすべてが後悔ではなかった。


 今は見えなくなった″輝き″こそ、尊かったんじゃないのか?


 おっさんが変化して何が悪い。

 おっさんが覚悟して何が悪い。

 おっさんで挑戦して何が悪い。


 愚か者であれ、挑戦者であれ。

 

 ジョブズのおっちゃんが言ってたのは、そういうことさ。


「ぅぁ、はい、よろしくお願いしますぅ……ぅう!」


 口元をおさえて泣くマーシー。


 彼女のしなやかな手の甲に口づけをする。


 こんな感じでいいのかな?


 まあ、なるようになれ。

 間違えてたら、新しく


 俺は立ちあがり、わんわんと泣き出した彼女の細い肩をだきとめた。



 第一章 はじまりの旧市街 〜完〜



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