第9話 『瞳の魔女フィオラ』撃破


 @ChikubiDaisuki0920の背中が見えた。


 門の向こう側だ。

 

「『霧』が出てるか」


 門を覆い隠すようにひろがる、薄い霧の幕がある。

 これはフロムハードウェア作品によく見られる、ボス部屋を隔離するための霧だ。


 ゲーム内ではこの霧を抜けることでしか、ボス部屋には入れない。


 ちなみにモブキャラに抜けられるか、どうかと言うとーー、


「やっぱり、ダメか。これからは主人公よりはやくボス部屋に到着するノルマも追加だな」

 

 ただ、まあ、こんかいは″屋外″なので、何とでもなる。


「よいしょっと」


 門をよじ登り、霧の壁を越えずに、門を越える。


 これでボス部屋への侵入は完了だ。


「ん?」


 ボス部屋のなかでは、最初のボス『瞳の魔女フィオラ』と@ChikubiDaisuki0920の激しい死闘が繰り広げられてると思ったが、そんなことなかった。


 @ChikubiDaisuki0920は棒立ちしてままで、門のずっと奥の建物から、ゆっくり足を交差させて歩いてくる美少女を見つめている。


 艶のある紫色の髪、夜空を閉じこめた宇宙の瞳。


 間違いない『瞳の魔女フィオラ』だ。


 というか、これムービー中じゃね?


 圧倒的に見たことある両者の配置と構図に、俺はまだボス戦前のムービー中であることをさとる。


「私の子ども……私の、子ども……」


 コミケで大量の薄い本が作られる原因となったセリフが聞こえてくる。俺もお世話になった。


 ちなみに、このボス『瞳の魔女フィオラ』は、紛うことなき『魔獣の病』の被害者という設定だ。


 1週目では殺すしかないが、2週目以降は助けるルートが追加され、ヒロインにすることができる。


 また、特徴としてヒロインのなかで、結婚したあと一番、″子沢山な家庭″を築くことも出来る特徴がある。


 ゆえに、紳士たちには大人気のヒロインだ。


 とりあえず、今回は後々の展開で、主人公を助けてくれるはずなので、本来はできない″救出ルート″でいこうと思う。


 さっき回収したアイテム『火炎瓶』を門のうえに6個ならべて、そのうちひとつを手にとる。


 そして、投げる。


「私の子ども……私の、きゃあああ?!」


 火炎瓶が、ムービー中のフィオラに直撃。


 フィオラは叫び、いそいでお腹のあたりから邪悪な光とともに、魔獣を展開してくる。


 『瞳の魔女フィオラ』は、本体を攻撃するのではなく、周囲の魔獣を攻撃してもダメージを与えられる。

 よって、魔獣をすべて倒すことで救出ルートとなる。


 俺は門の上から『火炎瓶』を投げつづけた。

 一晩中、モノを投げつづけたせいで、凄く肩が痛かった。


 フィオラの展開する魔獣は、出てきてすぐに状態異常・炎上でスリップダメージ継続して体力が減るをうけ、さらに新しい『火炎瓶」の爆発でつぎつぎに死んでいく。


 やがて、ちょうど6個目を投げ終えたあたりで、フィオラか大きな悲鳴をあげて倒れた。


 そのころになって、ようやくムービーが終わり、動きだした@ChikubiDaisuki0920。


 しかし、すぐに動かなくなる。


 ボス撃破したことで、ストーリーミッションが一区切りしたのだろう。たぶん、ストーリーミッション限定エリアから、『平穏』フェイズに探索できるエリアへ強制移動させられたのだ。


 今回の結果から、ストーリーは何十通りにも分岐して、どのエンディングに辿り着くかが決定する。


 だが、とりあえずはまず確定で訪れる危険性がある、1個目のバッドエンドは回避できたな。


 主人公が勝ちイベントで、負けるなんてことは、あっちゃいけないから、本当によかった。


 俺は門から飛び降りて、フィオラのもとへ向かった。


 フィオラのかたわらにしゃがみこみ、彼女の体の傷を診る。


 手足を多少火傷してしまってるが、命に別状はない。無事のようだ。


「あ、ぅ、ここは……?」


 フィオラが催眠から目を覚ます。


 AIの搭載されたヒロインたちには、高度なコミュニケーションをとらないと、結ばれる事なんてなかった。


 ゆえに、『フラッドボーン』の達人たちは、AIで恋愛の英才教育を完了してるといっても過言じゃない。


「よかった、無事で。さっ、俺といっしょに来い、安全な場所まで連れて行くから」

「っ」


 基本的に、『フラッドボーン』のヒロインたちは、リードしてくれる主人公を好む。


 よって、口調はつねに導く感じを意識するといい、と攻略Wikiにも載っている。


「あなたが助けてくれたんですね?」


 フィオラは瞳をとろんと潤ませていった。


 可愛い。だけど、ここは否定しないと。


「いや、違います。@ChikubiDaisuki0920っていうピンクのカールヘアの奴が助けたんです。お礼なら、彼にしてあげてください」

「@ChikubiDaisuki0920……っ、なんて、卑猥ひわいな名前なんですか! そんな人が、良い人なはずないです」


 フィオラは頬をむっと膨らませ言った。

 あまりにも正論すぎて何も言い返せない。

 ごめん。それ名付けたの俺なんだ。


「私にはわかりますよ、私には神秘の力があるのです。あなたの名前はエドウィン、私を助けてくださったんですね!」


 おかしいなぁ、こんな会話の流れになったっけ?

 主人公じゃないから、いろいろ別要素が絡みすぎて、ゲームの内容通りにいってない、のか?


 もういい、とにかく救出ルートには入ったのだから、彼女を旧市街からバーナム市街まで届ければ、あとで主人公を助けてくれるはずだ。


「よいしょっと。疲れてるだろうから、上までは運んでやる。ただ、魔獣がでるかもわからない。まわりに気をつけてくれ」

 

 フィオラをお姫様抱っこして、夜明けが近づきつつある旧市街をでる。


 ふと、腕のなかで艶っぽい視線を向けてくるフィオラに気がついた。


 宇宙を内包した瞳を、見てると今にも吸い込まれてしまいそうだ。


 彼女を嫁にむかえて、幸せな家庭を築いたこともあった。


 追加コンテンツの、俗に言う『エロゲーモード』で凄いシーンを目撃してしまったことある。


 だが、それは全部、主人公だったから。


 俺はモブキャラなのだ。

 もうあの最強の『銀人』ではない。


 44年も生きてきたから知ってる。

 自分の手の届く範囲以上、モノを望んでも上手くいかないんだと。


 だから、俺は彼女の視線を無視しつづけた。


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