第8話 サイドミッションRTA
旧市街には貴族令嬢が捕まってる。
名前はアベリーナ・ヴェインハースト。
主人公と結ばれる可能性のあるヒロインのひとりにして、ここ旧市街で助けておくと、あとあと良いことがある。
もちろん、初見で助けるのは困難だ。
ただ、ここでアベル嬢を助けておかないと先がない。
恐らくは@ChikubiDaisuki0920のプレイヤースキルでは、確実に詰む場面が出て来るからだ。
リスクをおかしてでも、いったん@ChikubiDaisuki0920から目を離して、秒速でアベル嬢を救うサイドミッションをこなす。
これしかない。
@ChikubiDaisuki0920が順調に進めば。
恐らくは長めのムービーに突入するタイミングがある。
ムービーの時間はおよそ1分3秒。
ムービーが終われば、即ボス戦がはじまる。
最初のボス『瞳の魔女フィオラ』はそんな強くない。というか弱い。
だが、ヤツは死ぬ。
@ChikubiDaisuki0920は、確実に死ぬ。
なぜなら、ここまで来てまだ体力回復アイテムの使い方がわかってないからだ。
さっきから、基本回復アイテム『
なにこいつ縛りプレイてもしてんの?状態だ。
道中の敵は俺が遠くから大鉈を投げて、全部始末してしまったので、おそらくこの@ChikubiDaisuki0920は、まともな戦闘経験すら積めていない。
ゆえに死ぬ。
ステップのやり方と、攻撃ボタンの押し方を分かってれば殺せると言われる、ゆいいつ超優しい最初のボス『瞳の魔女フィオラ』でも容赦なく死ぬだろう。
「回復アイテム使えって言ってるのに……モブキャラが喋ることを想定されてないから、主人公には届いてないのかな? 体力8割以上あれば、一気に削って状態異常・気絶にできるんだけど……」
雑魚すぎる主人公にボヤいていると、運命の分かれ道がやってきた。
右と左にわかれたY字路。
右に行けばアイテム回収。
左に行けばボス部屋まで一本道。
その道中に敵はいない。
ゆえに流石のアイツも死ぬ心配はない。
「っ、左行った!」
それだけ確定した段階で、俺はもと来た道を引き返した。
1秒でも使える時間は多いほうがいい。
なんとしてもアベル嬢をここで救っておくのだ。
⌛︎⌛︎⌛︎
「いや、やめて! きゃぁあ、だれか助けて!」
サイドミッション『アベル嬢の救出』は、実は攻撃すれば壊せる、ボス部屋ちかくの棚の後ろの道を進むと発生する。
背景としては、アベル嬢はバーナムの歴史に深く関わるヴェインハーストという貴族家の者なのだが、いまは足を洗って王都に住んでいて、
しかし、そのことがとある暗黒の儀式を行ってる奴らにバレてしまい、アベル嬢はこの旧市街までさらわれて来てしまう、というものだ。
ここで放っておくと、彼女は儀式の生贄にされてしまうだろう。
という訳で助けることにした。
⌛︎⌛︎⌛︎
路地の先に、怪しい二人組を発見。
身長は2メートルあり、血に塗れた汚い大袋を担いでいる。あの中だ。
あいつらはもう人間じゃない。
そして、さっき戦わず逃げた黒い魔獣より強い。
適性レベルのプレイヤーでも、2発で溶けるバカ火力の敵なのだ。たぶん、俺が攻撃をくらえば、チリすら残らないかもしれない。それくらいやばい。
よって、俺に出来るのは、あれらと戦わずにストーリー1周目で全てのサイドミッションを回収しきるために見つけだされた必殺技だ。
「ここら辺か?」
通りを壁にそって歩く。
建物の角に引っかかるが、そのまま壁に向かって走りつづける。つづける。つづける。
するとーー、
「よし、上手くいったな」
路地の先で、二人組が壁に向かって歩きつづけて、体が半分めり込んで、テクスチャがバグっていた。
秘技・
俺は完全に物理法則を無視して、それどうなっちゃてんの? という風態になった二人組から大きな袋を奪いかえした。
無事、アベル嬢救出だ。
「だ、誰よ!?」
大袋を担ぎ直したところで、中から声が聞こえて来た。
しかし、ここで解放すると彼女は歩く速度が遅いのでタイムロスだ。
「あ、敵があって来てます! このまま行きます! 我慢してください!」
「え、えぇえ!? 降ろしてぇえ?! 助けてえ!」
アベル嬢からクレームは多々あったが、もう時間を1分30秒も使ってしまっている。
これ以上目を離すと@ChikubiDaisuki0920が、ボスに無謀な挑戦をしかけて死んでしまう。
なにせ、一度も『銀人の夢』に帰ってないので、彼はまだ『銀人』ですらないのだから。
「よし、ここは判定ギリギリ」
本来は『
その判定ギリギリでアベル嬢を寝かせて、俺は猛ダッシュでボス部屋へ向かい走りだす、
「ちょ、ちょっと! あんた名前は?! これどういう状況なのよ!?」
「エドウィン、助けましたー!
走りながら簡潔な声だけ残していく。
たった二単語だけだ。
伝わるかはわからない。
まあ、いいんだ。
俺が助けたってわかってもらわなくてもいいんだし。
彼女と仲良くなる気もない。俺はモブだしな。
それに俺にはマーシーっていう可愛い彼女がいるのだから。
「え? 今、名前なんて……、いや、どのみちあの人が、助けてくれたってこと……?」
背後でなにが正確に読み取った勘のするどい視線を感じたが、俺にはそれに構ってる暇などなかった。
なぜなら、あのクソ雑魚主人公がボス部屋に入った気配がしたからだ。
急がなければ。
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