第7話 初心者の鑑


 馬車が来ちゃったよ。


「グロォォォォ!」


 体長3メートルは下らない黒い魔獣が、馬車に体当たりした。

 

 馬車がひっくりかえり、馬が勝手に走りだす。


 御者台ぎょしゃだいに乗っていた、俺と同じモブキャラがあっけなく、黒い魔獣の首をかまれて連れていかれる。


 そして、馬車の10メートル前方で、黒い魔獣はしとめた獲物もりもり食べはじめた。


 俺は視線を黒い魔獣から、倒れた馬車にうつす。


 すると、馬車の扉が開いてなかから、主人公が出てきた。


「っ、嘘だろ……」


 俺は言葉をうしなった。


 キャラメイク自由な『フラッドボーン』の、代表的な主人公としていったいどんなキャラが登場するのか、内心ちょっとワクワクしていたのだ。


 なのに、出てきたのは″見覚えのある顔″だった。


 中肉中背、身長も体格も初期設定のままだ。

 目がチカチカするほどの真っピンクのカールヘアで、おちょこ口、超絶ブサイクの顔立ち。


 あれは俺が一番最初につくったキャラだ。


 周囲にウケると思って、がっつりネタに走ったのに最初の5分で飽きられた。

 『平穏』フェイズ中に、ネットで知り合った友達とバーナム市街を建築して遊んでる時も、俺がいるだけで滑ってるみたいな扱い。


 でも、愛着があって結局、正規のエンディングまでは頑張った、ある意味1番思い入れのあるキャラ。


 名前は@ChikubiDaisuki0920。

 あまり深く言及しないでほしい。


「あのキャラってことは、まさか中身も初心者時代の俺なのか……?」


 @ChikubiDaisuki0920が右左前後に乱雑に動きはじめた。


 馬車のまわりをぐーるぐる回ったり、ステップしてみたり、″素手″で素振りしてみたりしている。


 それはまるで″動作確認″をしてるようだった。


「……」


 嫌な予感を抱いてみていると、どうやら@ChikubiDaisuki0920が黒い魔獣に気がついたようだった。


 俺は知ってる。

 あいつは絶対に戦う、と。

 ついでに死ぬことも知ってる。


 ゆえに、


「とら!」


 カッコつけてゆっくり歩きだした@ChikubiDaisuki0920の足元に、大鉈を投げつける。


 @ChikubiDaisuki0920は俺に気づき、見るからに動揺しはじめた。


「走れ、そいつと戦うな! ホァワイ、ホァワイ!」


 俺は大鉈を振り回しながら屋根上から飛び降りて、主人公を後ろから追いたてる。


 前方には黒い魔獣がいるが、目先の危険にしか気がつかない初心者の鑑@ChikubiDaisuki0920は走りだす。


 通り過ぎるころになって、黒い魔獣に気が止まったような反応を見せるがそこは、やはり超初心者。


 敵2人だとチャレンジ精神より「無理、逃げる!」の気持ちが勝ってくれて、全力で逃げてくれる。よかった。


「グロォォォ」

「となると、必然的に俺が黒い魔獣を相手するんだけど……」


 正直、厳しいような気がする。

 

 この敵キャラ、全然雑魚じゃないんだよな。


 俺も逃げよう。


「グロォォ!」


 飛びかかって来る黒い魔獣を横ステップでかるく避ける。

 そして、そのまま横を抜けて通りすぎた。


 少し走ると、前を走る@ChikubiDaisuki0920の背中が見えた。


 ふと、彼はふりかえる。


「振り返るな! 行け! ホァワイ、ホァワイ!」


「ッ!?」


 自分のことを変なモブと、強そうなオオカミが追いかけてきてると思ったのか、@ChikubiDaisuki0920は素直に走りだした。


 俺も黒い魔獣に殺されないよう、全力でダッシュする。


 黒い魔獣がおってこれない、安全地帯の家まで来た。


 さっき、俺より早く@ChikubiDaisuki0920がここに入っていったのは見えたので、とりあえず最初の関門はクリアか。


 その時ーー


「ふんっ、ふんっ、ふんっ」


 扉の影に潜んでいた@ChikubiDaisuki0920が殴りかかってきた。


 


 ゲームキャラ特有の動きなので、たやすく避けられる。


 ていうか、こいつ何してんだ。


「ふんっ、ふんっ、ふんっ」

「やめろ、やめろ、やめろよ」


 このゲーム、基本的に主人公キャラは喋らない。

 あるのは攻撃時の、このような気合声だけ。


 ゆえに、意思疎通ができない。


「ふんっ、ふんっ、ふんっ」

「やめろ、やめ、やめや、うざッ!?」


 こいつ俺がひとりになったからって、倒せると思ってるのか?


 まず、武器取り行けよ!


 過去の自分のめんどうくささに、イラついて大鉈の持ち手で、いっぱつ頭をぶん殴る。


「ふあっ!」


 @ChikubiDaisuki0920が吹き飛び、体力ゲージがあと″ミリ″となってしまった。


 勘弁しろって。


 奴は序盤も序盤で出てきた恐ろしい敵キャラ(俺)に、完全にびびり、そして走りだした。


 俺はうんざりしながら、彼に認識されないようちょこちょこ後を追っていく。


 うっかり落下死なんかされないよう、いつでも足元に大鉈を投げられるようスタンバイ。


 俺はマメなせいかくなので、一応、今のところアイテムの回収率は悪くないな。流石だ。


 最初のうちはアイテム回収は大事だからな。


 おっと、は俺がもらう。


 大鉈を投げて、目的の木箱に近づこうとする@ChikubiDaisuki0920を追っ払い、かわりに俺がアイテムを回収しておく。


 『火炎瓶』、投げて火属性ダメージをたたき出す。

 序盤のうちはプレイヤーの攻撃力が低いこともあって、なにかとお世話になるアイテムだ。


「ん、そろそろ、行くか」


 俺は『灯篭とうろう』が見えた時点で、それに興味津々に近づこうとする@Chikubi Daisuki0920の足元へ、大鉈を投げた。


 再びびくりとして、こちらへ振りかえるヤツ。


 俺は真顔で奴へダッシュ。


 @ChikubiDaisuki0920は、俺を見てまた逃げるように走りだした。


 実はこの『灯篭』、ストーリーミッション中は、2、3個出て来るオブジェクトで、これにプレイヤーが触ると『銀人の夢』に帰れるという、ある種のチェックポイントとなっている。


 そこでなら敵を倒したポイントを使ってアイテムを買ったり、レベルをあげたり、武器を整えたりできる。


 ちなみに最初の武器も、ここでもらう。


 だが、彼に『銀人の夢』に行ってもらうわけにはいかない。


 なぜか?


 だって、絶対にロード入るんだもん。

 

 主人公には、ストーリーミッション中は一度も、チェックポイントをかいはずに、ボス部屋まで行って、ボスを倒してもらわないといけない。


「………………無理くね?」

 

 俺は途方に暮れた。

 しかし、やらないと俺を含めた°全モブキャラ″の未来はない。


 俺は気合を入れ直すことにした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「面白い!」「面白くなりそう!」

「続きが気になる!「更新してくれ!」


 そう思ってくれたら、広告の下にある評価の星「☆☆☆」を「★★★」にしてフィードバックしてほしいです!


 ほんとうに大事なポイントです!

  評価してもらえると、続きを書くモチベがめっちゃ上がるので最高の応援になります!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る