第6話 主人公は死なせちゃいけない


 旧市街に到着した。


 あたりは静かだった。

 見たところ街が燃えている様子も、これから燃える様子もない。


 もし今日が″問題の日″なら、ここで物語が始まるための必須のイベントが起こる。

 

 イベントの内容はこうだ。


 不治の病をわずらい、古都バーナムに治療のあてを求めて流れ着いた異邦人(主人公)が、この街で初めて『魔獣』に遭遇する。


 今、俺が見張ってる通りに馬車が来るのだ。

 馬車には主人公が乗ってる。


 これはまさしく『フラッドボーン』の始まりだ。


 そこで、主人公は逃げなくちゃいけない。

 

 そこそこ強い魔獣に追われるが、武器も持たされてないので、ある地点まで逃げるしか選択肢はないのだが、一応、このゲーム″素手″という武器が存在している。


 そのため、初心者はだいたい戦ってしまう。

 これがいけない。時間の無駄だし、勝てない。


 主人公は死んでももちろん、復活する。


 彼らには『銀人ぎんじんゆめ』と呼ばれる″拠点″のような異空間が、心強い味方としてついており、そこで経験値を使ってレベルアップして、ステータスを振り分けたり、武器を強化したり、アイテムを購入したりできる。


 ちなみにストーリーミッション中は、何度でもこの『銀人の夢』には入れるが、そうでない時、つまり『平穏』フェイズの多くの場合は『銀人の夢』には入れない。


 レベルアップなどのもろもろは『平穏』フェイズでは、もっと別の場所でおこなうからだ。


 と、まぁ、主人公視点の事情ならよく理解してるのだが、これが一般モブキャラ視点だと、まったくどういうふうに状況が変わるのかはわからない。


 ストーリーミッション中、主人公が死んだら、ロード画面をはさむので、周囲の敵は配置がリセットされてしまう。


 つまり、モブキャラはリセットだ。


 そうなると、″新しいモブキャラは、まだ俺なのか?″問題が発生する。


 俺の意識までフロムハードウェアは保証してくれてるのか。


 感覚でいえば、保証されるわけがない。


 だって、もといた場所に再配置される敵キャラが、主人公の記憶をもってたら、攻略させないように、対策でも立ててくるかもしれないじゃないか。


 なんだ、そのゲーム。

 流石にクリアできないだろ。

 主人公以外、ループ物語の目線のキャラなんて。


 ゆえに恐らくは、主人公がストーリーミッションを始めたら、主人公にバッドエンドルートを回避させた上で、さらに主人公には″ただの一度″も死なれないようにしないといけない、ということだ。


「ふぅ……死にゲーで死ぬな……厳しいぞ、これ……2万時間やり込んだ俺なら楽勝だけど……ん?」


 始まりの通り。

 主人公を乗せた馬車がやってきてしまった。


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