第5話 バーナム市民界隈最強の男


 鼻をつく不快なにおい。

 生物を焼き殺したような、ひどい臭いだ。


「魔獣狩りに炎はつきもの、か……」


 家を出た俺はそうつぶやき、クラフト邸を軽くあさって見つけた大鉈おおなたを手に歩きだした。


 コツコツと靴裏で石畳みを鳴らして進む。


 しばらくすると、異様な湿っぽさを漂わせるT字路にでる。


 地面は赤黒く染まっている。

 腐り、濁ったピンク色のはらわたが撒き散らされ、思わず顔をしかめる最悪の臭いがした。


 ここで魔獣が狩られたのだろう。

 あるいは銀人が狩られたのか。


 やがて、見覚えのある風景に出会った。


 暗くてわかりづらいが、その風景は、この街がたしかに俺がプレイヤーとしてRTAしたり、敵をスルーして、そのままボス部屋まで直行したりしたあのバーナム市街だったことを教えてくれた。


 バーナム確定っと。


「ホォワイ」


「っ」


 声がして振り返った。

 そこには、人影があった。


 16歳のエドウィンより、だいぶ背が高い。

 顔は湿った毛むくじゃらで、手には俺と同じように大鉈を持っていた。


 また、目が違った。

 その瞳は″瞳孔どうこうが崩れて割れている″。

 これは『魔獣の病』に罹患りかんした者の証だ。


 こいつはもう……魔獣だ。


「ホォワイ!」

「本当に言うんだな、その掛け声」


 ゲーム中でも耳にタコができるくらい聞いた声。

 魔獣と化したバーナム市民は、腕を持ちあげ大鉈を大きくふりかぶる。


 それを見て、俺は大鉈の間合いから、ステップを踏んで離れた。


 基本的に『フラッドボーン』の戦闘で大事になる動きに『ステップ』と呼ばれるものがある。

 スタミナをわずかに消費しておこなう動きで、回避、攻め、牽制けんせい、なんでもつかえる動きだ。


 フルダイブ式アクションRPGを2万時間もプレイすると、体幹を維持したまま、前後右左、どこへでも残像を残す達人級の『ステップ』が出来るようになる。『フラッドボーン』の上位プレイヤーは、誇張なくチーター級に強い。


 ーーただし、プレイヤーが『銀人』なら、の話だ


「遅ッ!?」


 自分のステップの遅さに、落胆を隠せない。


 対人戦で勝率9割を越え、界隈かいわいでそれなりに有名になった@Chikage0920の動きではない。

 

「ホォワイ」


 だが、流石にモブキャラ同士の戦いで遅れを取る俺でもない。


 こいつが使うのは、すべて見たことある攻撃パターンだ。


 1回振り下ろして。

 はい、そこで、2回右左に大鉈を振る。


 全部ゲームのままだな。


「ここ」

「ホォァァアアッ?!」


 固定パターンの攻撃が終わった瞬間に、チカラ一杯に大鉈を叩きつけて、頭をかちわり、魔獣と化したバーナム市民を無力化した。


 俺の攻撃は決められたないのに、どうにも魔獣と化したバーナム市民の動きはプログラミングされた感がすごい。


 本当にゲームの世界なんだな……。


「ふぅ、まあ、ともあれ、これくらいの敵なら全然、イケるな」


 大鉈の血のりを、魔獣と化したバーナム市民の遺体の服でぬぐう。


 ふと、彼の持っていた大鉈が気になった。


 そういえば『銀人』は左手に銃をもち、右手に近接武器を装備するというスタイルで戦う。


 魔獣と化したバーナム市民のなかには、確か片手に松明をもち、もう片手に斧をもった敵がいたはずだ。


 俺だってもしかしたら、二つ持って何かできるんじゃないか?


 大鉈を手にとり、二刀流にしてみた。


「……あんま意味ないか?」


 自分の手に持つ大鉈を見て、俺自身が首を傾げてしまう。


 持ってる分には問題ないが、筋力がモブキャラなのだから、武器をあつかうのに十分な腕力がないのだ。


 到底、カッコよく振り回すことは出来なそうだった。



         ⌛︎⌛︎⌛︎



「ホォワイ……ホォァァアア?!」


 大鉈を相手に気づかれない距離から投げて、頭に命中させた。


 よかった。

 ちゃんと『フラッドボーン』と同じくヘッドショット判定がある。


 これなら奴らを倒せる。


 プレイヤーの使える武器のなかに『スローイングナイフ』と呼ばれる投擲武器がある。

 体に染みついた、投げ方をマネて、その要領で投げてみたら、これが上手いこと飛んでくれた。


「ホォワイ、ホォワイ、ホォワ、ァァアア?!」


「よし」


 なるべく敵に近づかず、俺は安全に大鉈を投げて、魔獣と化したバーナム市民たちを倒していった。


 旧市街はもうすぐだ。

   

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