第3話 マーシーと付きあう事にした
あれは『銀人』?
どうしてアレが異世界に?
いや、待てよ、銀人がいるってことは、もしかしてこの街ってバーナムなのか?
「はぇ〜似てるとは思ったけど」
まさか、異世界転生のなかでも、ゲームのなかに入ってしまうタイプの異世界転生だったのか。
ーーガチャっ
「お待たせ! 入っていいよ、エド!」
声に振りかえると、そこには美しい水色のドレスを着たマーシーがたっていた。
あまりの可憐さに、思わず言葉をうしなう。
「えっと……マーシーこれから舞踏会にでもいくの?」
「っ、ち、違うよ! これは、その……ちょっとした思いつきで、気づいたらこうなってたていうか……似合うかな?」
気合の入り方のクセが強い。
なんだそれ、可愛すぎか。
「綺麗だ……」
熱に浮かされ、
「っ、にへへ、そ、そうかなぁ?」
マーシーはそう言って、体をさゆうに揺する。
ちらりと俺のほうへ視線をむけると、いたたまれなくなったのか、口元を両手でおさえ、頬を赤く染めて「わあああ!」っと、叫びながら家のなかへ走って行ってしまった。
あれは照れてるのか?
だとしたら、やはりマーシーはエドウィンの事を、かなり好意的ーーというか好きなんだろうなぁ。
ふと、俺は背後へふりかえる。
そこにはもう、あの銀人の姿はなかった。
あの『フラッドボーン』の世界なのに、まさか主人公視点じゃないとはな。
となると、俺は……認めるしかない。
これはモブキャラなんだろう。
背景とかに混じってる、いても、いなくてもいいキャラだ。
だから、2万時間このゲームをやりこんだ俺にも、エドウィンとマーシーなんて人物がわからなかったんだ。
この世界で、俺はモブキャラとして生きていけと言うわけだな?
確かに身の丈にあってはいるか。
立場をわきまえた振る舞いは大切だ。
パチンコ屋で死んだかつてを考えれば、今の状態はどれほど切望しても手に入らなかったものだしな。
「いや、でも銀人と街並みだけで断定するのは早計か? うーん、まだまだ調査が必要だな」
俺は今後の方針を考えておくことにした。
⌛︎⌛︎⌛︎
マーシーの家に上がる。
「おや、これは珍しい客人じゃないかね。久しぶりだね、エドウィンくん」
マーシーの父親とばったり鉢合わせた。
焼けた浅黒い肌で、筋骨隆々。
あきらかに似合ってない無理して品を良くしようもしたちょび髭が可愛い。
中身の俺と同い年くらいだ。
名前は……クリテイト・クラフト。
「こんにちは、お邪魔してます。クラフトさん」
「ゆっくりしていくといい。ふふ、マーシーがやけにご機嫌でさっきから家のなかを走り回ってる理由がわかったよ」
ミスター・クラフトは「若いっていいねー!」と楽しそうに、そして2階に逃げていった娘に聞こえるようにいって奥へいってしまった。
若いっていいよね。俺も思うよ。
⌛︎⌛︎⌛︎
マーシーの部屋にはいった。
ピンク色を基調とした調度品がそろっていて、どこもかしこも女子っぽくてとても可愛らしかった。
「エド、それじゃ勉強をはじめましょ!」
「わかった。それじゃ、読み書きをマスターさせてくれ」
「ふふん♪ おやすい御用なのです!」
胸をはり、ぽんっとたたくマーシー。
決して小さくはない。……小さくはない。
⌛︎⌛︎⌛︎
マーシーとの勉強もぼちぼち進み。
窓から夕陽が見えるようになってきた頃。
俺はエドウィンの乾いた記憶に水をさして、なんとか読める程度には、文字と仲良くなっていた。
「凄いよ、エド、さっきまで何年人間やってるの?って感じだったのに!」
マーシーは可愛い笑顔でいった。わりと酷い。
だが仕方のないことだ。
エドウィンは現実にバカだったんだから。
「全部、マーシーのおかげだ、ありがとな」
「っ!」
エドウィンなら、「これくらいは普通だろ? あーあ、ちょっと、本気出したらこれだから勉強ってーー」とか言っている場面だ。ジョークじゃない。彼は本心で言う。そういう青年だ。死ねばいいと思う。
「やっぱり、今日のエドは、変だね、えへへ……でも、こっちのほうが、ずっといいよ」
楽しげな彼女。
マーシーが艶っぽい眼差しで俺を見つめてくる。
俺は一度見て、ふと視線を逃しそうになりーー後悔しないよう、彼女の目をまっすぐに見つめかえした。
わたくし、加納ただし、44歳、独身、
ここまでチェリーボーイ……否、チェリーおじさんをやってきたのは、負け続けてきたからだ。
臆病だった、どこまでも。
だが、二度目の人生、本気で生きると決めたんだ。
「マーシー……昼間の話覚えてる?」
俺は勇気をふりしぼり、話を切りだす。
彼女だって恐いんだろう。
これまでエドウィンが拒絶してきた時間のせいだ。
「……」
マーシーはただ黙って見つめてくる。
もう舞台は整っていた。
フラグは成立し尽くしていた。
すべてはエドウィン青年次第だったんだ。
「これまで、ごめんな。だけど、もう今日からは違うから」
「エド……」
「マーシー、君は可愛い」
「え、エド、そんな真剣な顔で言うなんて……恥ずかしいよ……でも、嬉しい、ありがと」
マーシーは頬を朱色に染める。
夕陽がさしこむ部屋で、彼女は俺の手のうえに手を重ねてきた。
俺はその手に指をからませて答える。
近づく彼女の愛らしい顔。
俺は息を呑み、ゆっくりと顔を近づけて、おでことおでこをぶつけ合わせる。
これはあれか?
キス我慢、という奴なのか?
まあ、チェリーおじさんには自分からキスする勇気なんてないから、平気なんだけど。
「……エドからして欲しい」
マーシーは恥ずかしげに、吐息まじりにささやいた。
「……ぅ、うん、頑張ってみる」
俺は答える。
童貞には、ちと厳しい要求。
だが、やれ、男だろ、俺は。
おでことおでこを合わせたまま。
陽に艶やかに光る柔らかな唇を見つめ、100万回くりかえした妄想にそってゆっくり、顔を近づける。
ふと、間近でマーシーが俺の目を見てる事に、気がついた。
俺はなんだか、彼女の目を見てると不安になりーー。
「もう、じらさないでよ、んっ」
「っ!?」
情けなくも逆に押し倒された。
加納ただし44歳、ファーストキスであった。
その唇はどこまでも柔らかく、口いっぱいに、鼻いっぱいにマーシーの″味″が広がった。
1秒か、2秒、ただそれだけなのに、俺はとてつもない充足感に満たされていた。
「はぁ、はぁ」
唇が透明の糸をひくのが見える。
俺のうえで、マーシーは顔を真っ赤にして、周知に悶える顔をしている。
そして、ガバッと俺の胸に飛び込むように倒れこみ、抱きついてきた。
「ぅぅぅ、こんなに幸せな気持ちになったの初めて……!」
「よしよし。……情けないけど、俺もだよ」
マーシーを頭を撫でる。
「エド、わたし、エドのことがずっと、ずっと、ずーっと好きだったの……」
「うん、知ってた……ごめん。こんな状態で言うのも、なんだけど、俺たち付き合う?」
「……うんっ! もちろん、よろしくね! 大好きだよ、エド!」
泣き続けるマーシーを抱きしめ、俺は彼女の黄金の髪に顔をうずめた。
すごくいい香りがした。
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