高校卒業から19歳まで
鋭い若さの十七番まで
一
彼女は若かった。その若さを持て余していた。心はひどく乾いていた。まわりの輝きが羨ましかった――そして今日も本を一ページだけ捲って眠った。
二
彼女は友人に好意を抱いていた。友人に好かれたかった。しかしそんな夢は叶うまいということもわかっていた。彼女は内向的だったから。それならいっそ彼女は友人を嫌おうと思った。しかし彼女が誰かを嫌ったところでそう効果があるわけもなく、彼女は人間間の上下を悟った。
人々は電車に揺られ続ける。
三
彼女は泣いた。涙のあとに残ったのは深い絶望だけだった。
四
文章でならいくらでも嘘をつくことができる。彼女は確かに文章で自分を美化していた。それが冒涜であるとも知らずに。
五
彼女は大先生に対して失礼なことを無論知っている。しかしそれでも書き始めないわけにはいかなかった。そして大先生の苦悩の足元にも及ばないことを知った。しかし苦悩がえらいのかと聞かれれば答えることはできず、苦悩、その意味を改めて反芻していた。
六
彼女は好かれたかった。彼女を好きでない人間がいるという事実は何だか解しがたいことのように思えた。――実際外に出れば他人を風景としているのに。
七
目に見えないけれどあるもの。
昼間の月、虚数、時間、地球の裏側、愛、……
不意に馬鹿みたいに思えて止めた。
八
あるときには音楽は薬だ、と彼女は思った。
九
見捨てられるのが何より怖い。誤解されるのにはもう慣れた。しかし見捨てないでほしい。嫌っているわけじゃない。何故だろう、しょっちゅう誤解されるけど――
彼女は永遠に我侭を繰り返し、卑怯な自己愛の中に眠る。
十
誰かこの病巣を取り除いて欲しいと彼女は思った。しかし適応するのみなのだろうということもわかりつつあった。それは世界に適応することと同じなのだろうということさえも。
十一
巣の中にいた雛は軟弱である。ぬくぬくと餌を待てばいいから。飛び立った鳥は強靭である。どこまでも自力で飛んでいけるから。
十二
彼女はよく遠くを見ている。そこにあるのは現実の景色ではなかった。しかし世界だった。或本に書いてあった言葉を思い出していた、「宇宙旅行なんかしなくても、我々は知性で宇宙を越えて飛んでいける。」……
十三
彼女の存在自体が人を損なうこともあるだろう。しかし彼女は傲慢にも生きたかった。他人の存在自体が彼女を損なうことを許せなかった。
十四
彼女は人をひどく軽蔑していた、と同時に切実に憧憬していた。そして人に触れたとき、――その確かな冷たさと暖かさに愕然とした。
十五
彼女には、他人に感情があることがどうしても理解できなかった。もちろん他人が泣いたり笑ったりというのは幾度となく見てきたが、実感として、他人の感情を掴めなかった。その本当の意味を知ったとき、彼女の前には茫漠たる世界が広がった。
十六
怠慢、――確かに彼女は怠慢だった。努力とは才能だと痛感した。
十七
彼女は毅然と生きたかった。その弱さを抱えながらであっても。
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